46.正妃の実家を上回る最高権力者

 貴族の中でもっとも発言権の強い家はどこか。問われたら国内外の貴族は誰もが口を揃えて、ルーベル公爵家の名を挙げるだろう。そこへ天才量産型の家系であるシモン侯爵家の嫁が足される。最強タッグね。


 海外から警戒され、王族すら凌ぐ権力と財力を有するルーベル&シモン連合となれば、第二王子の母君の実家の権力を凌駕した。第一王子アルフォンスが「君が王になればいい」と焚き付けたのは、「そのつもりがあるなら本気で簒奪していいよ」とお墨付きを与えた形だ。


 実際のところは面倒は嫌だと断るシルヴァンの性格を知っているから、遠慮なく口に出した。笑顔の王子妃フランソワーズ殿下が唆す。当然シルは反発した。


「なんだ、出来レースだったのね」


 あふっと欠伸が出て、慌てて口を手で押さえる。眦に涙が滲んだ。


 シルは二番手が美味しいと思っているし、第一王子は弟に継がせてめちゃくちゃになるなら、自分が継ぐしかないと覚悟を決めている。国王が優柔不断なのが問題だけど、正妃の実家に玉座を奪われまいと抵抗した結果だ。下手すると毒を盛られて国王崩御のどさくさに紛れ、第二王子が王になるシナリオも考えられた。


 うーん、物語の流れとしてはその方が原作に近いかも。王子妃じゃなくて、次期王妃扱いされてた気がするわ。ヒロインは逃げたけど、この辺に強制力の名残りが覗いていた。


「それで第一王子アルフォンス殿下を推すのね?」


「俺は継がない。第二王子は無理、他に選択肢がない上、次期国王に恩を売れば使える」


 腹黒い本心がちらり。さらりととんでもない発言をした男は、私のうなじに顔を埋めて匂いを堪能していた。ラベンダーの匂いしかしないと思うわ。


「それより、アルフォンスの名を口にしないでくれ。塞ぎたくなってしまう」


 物理的な意味に聞こえて、顔を引き攣らせた。縫ったり猿轡したりするのかしら。実家で見たあれこれを思い出し、首を横に振った。そういえばお父様って、表向きの執務はしていないのよね。天才を量産するシモン侯爵だから、お金に困ってないんだろうと思われてるけど、裏で暗躍はしているの。


 王族の秘密を暴こうとした男爵家を滅亡させたり、国家転覆を図る他国の間者を処分したり。私が知るだけでも、数十人は片付けてるわ。そんな実家と、最高権力を持つ公爵家の婚約……やだ、ミステリーかサスペンスが1本書けそうよ。


「レティ、覚えておいてくれ。俺が君を呼び出す際は、必ず合言葉を添える。それ以外の誘いは、誰の名であっても逃げてくれ」


 国王でも無視して構わない。言い切ったシルはカッコよかった。首筋を匂ってなければ、もっとカッコ良かったけどね。本物の呼び出しを無視して問題が起きても、両家の名を出せばお咎めなしになりそう。


 合言葉は……ちょっと恥ずかしいけど、これなら普通の人は使わないから区別できる。出来たら使わずに済ませたいわね。

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