29.なぜその色になったのかしら
家族のお茶会を経て、アリーちゃん相手に屋敷でのお茶会デビューを果たした。経験値は十分稼いだところで、クリステルを呼んでのお茶会を開く。
事前にドレスを贈ろうとしたら、サイズが分からなかった。この世界、貴族も平民もオーダーなのよね。平民の場合は、古着を着用することも多い。その場合は試着して、サイズを確認するのだ。貴族ならば、ほとんどは新品で仕立てるため……まずサイズが必要だった。
いくら女性の友人同士でもサイズを聞き出すはずがない。それは極秘情報だろう。胸や尻の大きさを知られるなんて、社交界では致命傷だ。となれば、抜け道があるはず。実母と義母、迷うことなくアリーちゃんに相談した。
「というわけで友人にドレスを贈りたいのですが、サイズはどう合わせたらいいかご存知ですか?」
「簡単よ、その子の家が使ってるお店にオーダーして、彼女のサイズで仕立ててもらうの。お金だけ払えばいいのよ」
「なるほど」
貴族家はお気に入りの仕立て屋がおり、そこに注文すればサイズを合わせてくれる。前世の記憶にはない知識だった。ついでに言うなら、うちの実家もよそと交流がないので、こういう話は知らない。お母様のドレスはよく届いたけど、採寸はどうしてたのかしら。
あのお父様が、誰かにお母様の採寸なんてさせるはずがない。たとえ仕立て屋が女性でも、考えられなかった。となれば、お母様自身が侍女と? まさかお父様がそこまで変態……じゃなかった、技術を極めて万能執事みたいになってたとか。
想像したら怖くなったので、考えを打ち切った。ユニファ男爵家の仕立て屋を探し、そこへ注文を出す。お金の請求先をルーベル公爵家に変更し、ドレスを届けてもらった。
色やレースの有無などを確認せず、ただ「目的」だけ尋ねられる。お茶会と夜会でドレスは全く違う。普段使いなら、ワンピースに近いし。素直に「お茶会」と連絡した。
アリーちゃんの厚意で、公爵家の馬車を迎えに出す。お茶菓子OK、紅茶完璧、お天気も文句なしの好天だった。私はアリーちゃんの趣味で、水色のドレスを着用する。昼間なので、真珠中心の飾りを纏う。大粒のダイアとか、日光の下では目潰し攻撃に使えるものね。
庭師自慢の美しい庭園に、執事が指揮して侍女が用意したパラソルとテーブルセットが並ぶ。先に席について待つ私は、到着を告げる声に立ち上がった。庭を横切って迎えに行きたいが、シルとの約束なので我慢する。
「お招きありがとうございます、レオンティーヌ様」
まさかのピンクドレス。髪色がピンクブロンドなのに、ピンクを着たら……髪とドレスが同化するわ。それ以前に、誰の好みよ。
「ようこそ、クリステル嬢」
まだ執事が控えている。今は深い話や呼び捨ては回避して、二人で淑女ごっこに興じる。わくわくするお茶会はスタートし、私は執事達を声の聞こえない距離に追い払った。
「ねえ、大切なことだから答えて欲しいの。どうして……ピンクのドレスにしたの?」
「えっと、お店で一番高価な布がピンクだったらしいです。私もよく分かりません」
「……じゃあ、前世とゲームの話にしましょうか」
一瞬呆れたけど、切り替えた。そう、一番高い布を使おうとしてピンク。あの仕立て屋、どうしてやろうかしらね。
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