21.お嬢様を女王様に聞き間違えたみたい

 数日後、なんとか連絡を取った情報屋は予想外というか。ある意味、そうよねと納得できる情報を持ってきた。洋服屋の振りをして……ね。ルーベル公爵家出入りの洋裁店と同行したので、するりと接触できた。


「ご苦労様、今後も連絡が取れるようにして頂戴」


「承知しました。ところで、女王様。いつの間に公爵夫人になったんですか」


「……公爵夫人じゃなく、次期よ」


 跡取りの嫁であって、まだ公爵夫人じゃないの。それと「お嬢様」を「女王様」に聞き間違えたみたい。私ったら、動転してるのかしら。布を当てて鏡の前に立つ私に、女装した情報屋は笑顔で次の布を進める。その際に、そっと手渡された紙を胸の谷間に押し込んだ。


 やや足りないお胸だけど、ドレスのためにコルセットを着ければあら不思議。腰があり得ないほど細く、ない胸は上下左右からかき集められるのよ。ビフォーアフターが、もう詐欺レベルよね。


 情報屋のカジミールが女装したのは、洋裁店のスタッフを見れば一目瞭然だった。女性しか入室していない。まあ私の採寸や試着があれば当然だけど、男性スタッフは一人もいなかった。そこへ混じるためにカジミールは女装し……なんか似合ってる。


 隠し攻略対象じゃないかしら。何かの条件を満たすと現れる攻略対象って、ゲームで流行った時期あるもの。じっくりと顔を見ていると、やや頬を染めて「なんっすか」といつものはすっぱな口調が出た。うん、弟枠で攻略したくなるわ。


「今後はこの子にお使いを頼みたいわ」


 気に入ったとアピールし、公爵家へ出入りする理由を作る。私が呼びつけたと言えば、たぶん大丈夫だと思うの。それに女装姿だから、シルに邪魔される可能性は低い。バレたら、彼の命が危ないから気を付けないといけないけど。


「ええ、もちろんですとも。ルーブル公爵家の若奥様のご要望とあれば、こちらに否やはございません」


 洋裁店の主がそう言い切ったことで、今後の接触ルートを確保した。早く貰った情報を読みたいわ。そわそわしながら数着のドレスをオーダーし、普段着となるワンピースも注文した。隣の部屋で大人しく「待て」をこなしたシルを部屋に呼び、褒美を与える。


 足で唇が触れていいのは、ひざ下までに決めた。エスカレートする前に制御しなければ、調子に乗るタイプだわ。躾は最初が肝心なの。上下関係をもう一度きっちり理解させなくちゃ。


「さあ、仕事をしてらっしゃい」


 残念そうにしながらも従うシルを隣室へ戻し、扉に寄り掛かって蓋をしながら胸元の情報を取り出す。紙に記されていたのは――ヒロインはいるけど、攻略対象が全員いない学院の現状だった。なんなら、悪役令嬢役のご令嬢も半数が卒業したり通学免除になってるわ。


 第二王子エルネスト殿下は、第一王子の補佐に入るため飛び級で卒業済み。婚約者の公爵令嬢も同様で、二人仲良く王宮で執務を行っている。ルーベル公爵家嫡男シルヴァンは結婚し、悪役令嬢の私レオンティーヌと同棲……あ、ここは同居に訂正しておきましょう。

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