14.問答無用で結婚が成立してしまった

 結婚式は、敷地内のチャペルで執り行われた。いろいろツッコミたいけど、触れないでおこう。金持ちな公爵家なら、敷地内にチャペルくらいあるでしょ……と原作者は考えたのかも知れない。


 列席する面々に王族が混じっている。さすがに国王陛下はいないけど、攻略対象の第二王子エルネストはいた。その隣の金髪美形は……隠しキャラかな? 王族の紋章が刺繍された上着を見る限り、第一王子のような気がした。ゲームにいなかったキャラは分からない。


「なぜ攻略対象が」


 ぼそっと呟いた私は、チャペルの入り口から腕を組んだシルヴァンに咎められた。


「攻略対象? レティが攻略するのは、俺だけだ」


 顔が引き攣る。花嫁のヴェールって、こんなふうに役立つのね。一般的には父親が付き添い、正面の祭壇前で花婿に引き渡される。変更になった理由はひとつ、シルヴァンが私の首輪の鎖を手放さなかったからよ。


 お父様は大笑いし「いいじゃないか! 似合いだぞ」と嬉しくないコメントをくれた。ちなみにお母様は、全身を黒いヴェールで覆って参列する。どう見ても魔女だし、好意的に判断しても葬式の参列者だわ。


 お父様はお母様の姿を足の先ほども見せたくなくて、シルはそれに「わかる!」と全力で賛成を表明した。お陰で主賓である花婿の許可を得たお父様は、黒いヴェールを選んだ。理由は、花嫁が白だから。


 色を被らさない配慮なら、別にピンクでも良かったんじゃない? お母様、ピンク好きだもの。


「攻略しないわよ」


「本当だな? もし他の男に色目を使ったら……はぁはぁ」


 お仕置きを想像したのか、やばい顔になっている。指でぱちんと額を叩いた。


「この鎖を解いてよ」


「絶対に嫌だ」


 小声で言い合いながら、ゆっくり前に進む。その理由は、殺気と剣先が後ろから迫ってくるためだった。お父様とお母様が並んで、後ろを進む。ヴァージンロードに父母付き添いだなんて。


 結婚は仕方ないわよ、貴族令嬢だもの。跡取りを別に作ったなら、嫁き遅れる前に娘を処分したいのも分かる。ただ、相手は選んで欲しかった。


 黒髪美形の騎士、金も地位も権力もある公爵家の嫡男――ただしヤンデレ。私の死亡フラグを立てる、SM属性派生型の男なのよ? もっと金も地位も権力も顔もしょぼくていい。特殊性癖の変態でさえなければ、歳の差20歳までは我慢するから。


 心の声が呪詛になって絞り出されたようで、隣のシルは嬉しそうに囁いた。


「俺をそんなに評価してくれてたのは、知らなかったな」


 評価じゃなくて、酷評……っと。後ろからちくりと針の感触が! お父様、モールス信号で「黙れ」はないと思う。背中が地味に痛い。


「シルヴァン・リュリ・ルーブル、レオンティーヌ・シモン。両名の婚姻を、神の御名において認める」


 ……は? 


 健やかなる時も病める時も、から始まる誓いの言葉が、あり得ないくらい省略された。しかも問答無用で承認? 何言ってるの、この神父。あ、よく見たら枢機卿じゃない。斜め後ろに立ってる見習いっぽい神官、攻略対象だ。銀髪だし間違いない。王弟の息子だっけ。


 思わず凝視してしまい、ヴェールが取れて視界がクリアになったことに気づくのが遅れた。


「よそ見は許さない。俺のレティ」


 反論する前に唇を奪われ、にゅるりと舌が入り込んだ。全力で彼の胸を叩くが、金鎖を絡めて抵抗を阻止される。人前でじっくりキスを交わし、盛大な拍手の中で私は半泣きだった。


 逃げる前に、結婚が成立してしまったわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る