10.ヤンデレ属性にロックオンされた

 痺れが抜けても、私に自由はなかった。婚約者のはずなんだけど? 首を傾げる状況だけど、両手両足を南京錠付きの革ベルトで拘束されたまま、抱っこで移動だった。


「自分で歩けます」


「今は無理だよ。諦めて」


 あなたが解いてくれたら、自分で歩くわよ。そう言いたいけど、逃げないかと問われたら無言になる。だって、怖いんだもの。物語が進んだら私を監禁したり、殺したりするのよ。


「はい、あーん」


「……解いてくれたら自分で食べるわ」


「口移しが良かった?」


「ごめんなさい」


 素直に謝って口を開く。残念そうな顔をしないでよ。口に入った野菜をしっかり噛んで食べる。何か入ってたりしないか、調べながら飲み込んだ。平気そうね。


 スープを口元まで運んでもらい、スクランブルエッグは胡椒多めで。パンも齧りながら、コーヒーで流し込む。最後にデザートのヨーグルトで締める。基本は中世なのに、時代考証がおかしい。まあ、小説やゲームの世界なら仕方ないのかしら。


 コルセットも、骨が軋むほど絞るタイプじゃない。もっと後の時代の柔らかめ……前世の記憶によると、補正下着に近かった。


 肌触りがいい絹のワンピースを着た私は、下着をすべて取られてしまった。寝て起きた時に、コルセットの骨が当たった肋骨が痛いと訴えたせいね。侍女のマノンが、容赦なく全裸にしてワンピースを着用させたの。


 拘束具を外すチャンスと思ったのに、肩から袖までボタンって……外さなくても着れるようにする技術がすごいわ。スポンと被ったら、後はボタンを留めて終わり。手際が良すぎて、驚いている間に下着を片付けられてしまった。


「あの……シルヴァン様?」


「シルヴァンでは硬いね。婚約したんだからシルでいいよ」


「シル様」


「シル」


「……シル、えっと」


 名前の呼び方でやり取りしていたら、何を聞こうと思ったのか忘れたわ。何か要望があったような……。あ、思い出した!


「シル、下着が欲しいわ」


「残念だな、照れた感じでもう一度強請って」


 そっちの意味の「残念」は予想外だわ。照れた感じで強請らないと下着なし、どうしよう。強請るのも頬を染めるのも問題ないんだけど、ここで要求を呑むとエスカレートしそうな気がした。


 ヤンデレ属性なのは間違いないから、こちらが大人しくしてると危険度が高まるわ。


「いやよ」


「そう? 俺はこの方が好きだから良かった」


 思わせぶりに腰を撫でられて、早々に降参を決めた。


「お願い……下着を、返して」


 出来るだけ可愛く見えるよう、上目遣いでお願いしてみた。きらきらの目で見つめる彼が、私の視界でぼやける。がっちり後頭部を押さえたシルが、唇を重ねた。軽い接触事故、そう思いたい。ファーストキスなのに、狂犬に咬まれた!


 歯を食いしばって侵入を拒んだので、べろりと口の周りを舐められた。そういえば私、化粧してない。スッピンじゃない? 自覚したら恥ずかしくなって、頬が赤く染まった。


「可愛い」


 囁く声に、赤くなるタイミングが最悪だったと気付く。知ってる? 後悔って、後で悔やむのよ……そう、今の私のようにね。

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