25話 黒い騎士団
ベルナデットの言う通り、2人目の子どもは恵斗と同じ中学校にいた。
恵斗の隣のクラス・2年2組の本宮蓮。
彼は恵斗と同じ首飾りを持っているだけではなく、あちらの世界の記憶があった。
「じゃあ、本宮も10年前にウィザーリアから…?」
「ああ」
蓮は10年前にこの街に来たきっかけを話し出した。
10年前の王都ルティウスでは、国王が崩御したばかりであった。
王は亡くなる前に世襲に乗っ取り、長男のアーサーを跡継ぎに選んだ。今のウィザーリアの国王である。
アーサー王は即位以来現在に至るまで国民から慕われる『聖君』としてその場に立ち続けているが、即位したばかりの頃に一度クーデターが発生した事があった。
首謀者は前王の次男・アーサーの実の弟に当たるモーガン王子。
彼は兄であるアーサーを亡き者にし、王座を我が物にしようと目論んでいた。
そこで立ち上がったのが王立騎士団と魔術師団である。
その魔術師団にいた女性の魔術師・マリア・モーリアックとその息子たち。
このマリアと言う魔術師が蓮の祖母である。
早くに結婚したマリアだったが、夫を若い内に事故で亡くし女手1つで2人の息子を育てあげた。
そして成人を果たした息子2人は、それぞれ結婚して家庭を持っていた。
「その次男夫婦が俺の両親」
校舎裏に壁に沿って続く小さな花壇の縁に座った蓮は、足元の小石を拾って手の中で転がした。
「…、じゃあ、こっちにおばあさんと来たって事は、」
「ああ、両親はもういない」
王立騎士団と魔術師団の奮闘により城の警備は強化され、モーガン王子の目論見が果たせられないまま終わる可能性も出て来た頃、それは起こった。
ウィザーリア城の城下街の一画。
魔術師団に所属している魔術師たちが暮らしている地区があった。そこに幼少期の蓮は家族と共に暮らしていたが、ある日の深夜、その地区が何者かに襲撃されたのである。
「王様の弟は、自分に従う家来や騎士を集めて新しい騎士団を作ったんだ。その騎士団が俺が住んでいた地区を急に襲って来た」
「え…!?」
この地区には魔術師以外の一般市民も多数暮らしていたが、モーガン王子が率いる新しい騎士団は関係なく一軒一軒襲い、火を放って行った。
「あいつらは全員黒い鎧に黒いマントを着けてた。…悪魔が来たと思ったよ」
「じゃあ…、お父さんとお母さんはその時に、」
「…ああ。戦ったけど殺された。俺の目の前でな」
「そんな…!」
蓮も自分と同じく、両親を亡くしていたと聞いた恵斗は驚きの声を上げた。
突然の襲撃を受けたが、どの魔術師も精一杯戦った。
しかし、結局一般市民・魔術師共に多数の死者が出た。
その中に蓮の両親も含まれていたのだ。
「何とかばあちゃんに助け出された俺は、おじさん…、ばあちゃんの長男な。そのおじさんのところの従姉妹と3人で逃げた。生き残って戦っていたおじさん達と会って、従姉妹を引き渡した後は2人で逃げたけど…途中であいつらに囲まれちまった」
燃え盛る街の中、蓮を庇いながらマリアは騎士団に立ち向かう。
『私たち魔術師はあんた達を一生許さないからね!このマリア・モーリアックを舐めるんじゃないよ!!』
「…それでばあちゃんが魔術で戦おうとした時に、急に目の前が眩しくなって…気が付いた時にはこの街にいた」
以来、蓮はずっとこの街で2人で暮らして来たのである。
街に来てすぐ、マリアは蓮に古い魔法を掛けた。
『お前はこの街で暮らす普通の人間・本宮蓮。ばあちゃんも普通の人間として暮らそう。死ぬ日まで、悲しい事は全部忘れなさい』
マリアは先月、突然の事故で息を引き取った。
病院で祖母を看取った瞬間、魔法が解けてウィザーリアでの全ての記憶を思い出したのだ。
「全部思い出したら、少し使えるようになった」
そう言った蓮の右手の人差し指の先が少し光を放ち、足元の土を差した。その先にあった小さな石が宙に浮かぶ。
「うわあ…!」
「お前はあっちの記憶があるのか?」
「ああ。俺も記憶をなくしていたんだけど思い出した」
恵斗も自分の生い立ちについて蓮に話をした。
「そうか…上村も親がいないんだな」
蓮はそう呟いた後、空を見上げた。
「けど、双子の妹がいるんだな。俺もさっき言ったけど、あっちに従姉妹がいる…と思う」
「思う?」
「生きていればな」
蓮は黒い騎士団に襲われた日、途中で従姉妹と別れたとさっき言っていた事を恵斗は思い出した。
恵斗は首飾りを握りしめる。
「…、夢の中で会った人に、俺と同じようにウィザーリアから来た人が近くにいるって言われて探していたんだ。その人と会ったら、扉が開かれるって」
恵斗の言葉を聞いた蓮は立ち上がる。
「…、じゃあ、俺たちは向こうに行けるって事か?」
『そうよ』
「!!」
その時、上から声が聞こえて来た。
恵斗が上を見上げると、上空に夢の中でいつも会っていたベルナデットがいた。
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