26話 天空の扉
上空に浮かぶベルナデットの姿を見た蓮は、驚いた表情のまま固まっている。
「ベルナデット…!」
恵斗がベルナデットに会うのは、2人目に会うまで夢には出て来ないと言われた日以来だった。
もっとも、今まで会っていたのは夢の中のみである。
実際に会うのは今が初めてであった。
『やっと2人目に会えたわね、恵斗。あなたが蓮くんね?初めまして。召喚士のベルナデット・シュナイダーです』
「……、どうも」
蓮はおずおずと頭を下げた。
「…じゃあこれで、ウィザーリアに行けるのか?」
『ええ。歓迎するわ。恵斗、蓮』
ベルナデットがそう言った瞬間、地面が光り始める。
恵斗が見下ろすと、足元に光の魔法陣が浮かび上がっていた。
「なっ…何だこれ!!」
目の前に立つ蓮を見ると、蓮の足元にも同じ魔法陣があるのが見えた。
辺りに風が吹き始め、ベルナデットがさっきよりも高い位置に浮かんで行く。
『天空の扉よ、我は聖君アーサー王の名の元に汝を解き放たん。選ばれし少年たちを生まれし土地へと導きたまえ』
風が強くなっていく中で恵斗が目を凝らすと、ベルナデットが上空で両腕を広げているのがうっすらと見える。
そのベルナデットの上、何もなかった場所に大きな扉が突然現れた。
「………!」
恵斗は上を見上げたまま、目が離せなくなった。
「…すげぇ、」
横から蓮の声がした。
恵斗と同じように上空を見上げている。
自分たちは本当にウィザーリアに行こうとしている。
夢ではなく、今目の前で起こっているのだ。
『次に目を開けた時は2人ともこっちの世界にいるわ。そこでまた会いましょう』
開いた扉から光が溢れ返り、恵斗と蓮は目を瞑った。
*
気が付いた時、恵斗はまた水の空間に浮かんでいた。
『またここか、』
ゴボ、と口から泡が出て上に浮かんで行く。
きっと次に目が覚めたら、いるのは本当にウィザーリアだろう。
『安曇先生…』
恵斗たちは学校で召喚された。
安曇には何も話せていない。
羽白だけではなく、自分まで帰らなかったらきっと安曇はとても心配するに違いない。
けど、行かなくてはならない。
羽白に会い、もう一度安曇のところへ連れて行くために。
そして…。
『未斗、』
生き別れた双子の妹、未斗に会うために。
*
次に目を覚ました時、恵斗は夢でいつもいる広場にいた。しかし夢で見て来た時とは違い辺りは薄暗く静まり返っている。広場の先にある住宅街にはまばらに光が灯っているのが見えた。
上を見上げると、星が散りばめられた夜空が広がっている。
広場の奥の方にある丘の上に見える城の横には、満月が浮かんでいた。
「…………」
本当にウィザーリアに来たのか?
しかし辺りには自分以外誰一人の姿も見えない。
ベルナデットも蓮もいなかった。
まだ夢の中なのではないかと不安がよぎった時、静まり返った住宅街の中から人の声がした。
「気をつけて帰ってねカトル!おやすみ」
「おやすみニキータ。明日は寝坊すんなよ」
カトル、ニキータ。
恵斗はその名前に聞き覚えがあった。
カランと言う音と共に、小さな建物の扉が開く。
中からはキャスケット帽を頭に被った同世代くらいの少年が出て来た。
「………」
彼を見た恵斗は、カトルとニキータが誰なのかを思い出した。
この広場で毎朝新聞を売っていた少年たちである。
カトルが出て来たのはきっと新聞店だ。
仕事を終えて、自宅に帰ろうとしているのか。
恵斗はカトルから目が離せなかった。
夢の中で見た時はカトルもニキータも、その他の人たちも自分に気が付いている様子はなかった。
なので2人とは話した事は一度もない。
しかし、次の瞬間夢とは違う事が起こった。
広場を通り抜けようとしていたカトルが恵斗に気が付き、足を止めたのだ。
「…………!」
恵斗は少し驚いたが、そのまま黙ってカトルを見続けた。
カトルもその場から全く動かずに恵斗を見ている。
恵斗はその時やっと、本当にウィザーリアに来たのだと確信した。
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