2話 今日は水曜日
恵斗は夢から目が覚めた後、そのまま支度をして学校に行った。
しかし、授業内容はいかなる内容も一切耳には入って来なかった。恵斗は机に座りながら、夢の中のあの街の事ばかり考えていたのだ。
「絶対に日本じゃないよなあ…」
街並みと人々の雰囲気からして、あれはやはりどこかの城下街なのだろう。
自動車や公共の交通機関がなく、主な移動手段が馬車か馬…あるいは徒歩な点から見て恐らく時代は中世、そして西洋色が濃い。
恵斗は何かの足しになればと机の中から世界史の資料集を引っ張り出し、パラパラと眺め始めた。
しかし、その時の授業は世界史ではなく英語であった。
結果恵斗は外国人の英語教師に早口な英語で窘められてしまった。
残念ながら、恵斗には教師が何を言っているのか全く分からなかった。
英語力があったらもっと心に響いたのかもしれない。
まあ、それはよいとして。
世界史の資料集からは結局一切得になる情報は得られないまま帰路についた。
仕方がない。続きは夢を見ながら考えよう。
そもそもこれだけ考えておいて、今日もし全く違う夢を見たとしたらその時は間違いなく自分自身を呪うだろう。
知らない間に、恵斗はあの夢を見るのが楽しみになっていた。
帰宅をした恵斗はいそいそと夕飯を食べて風呂に入り、早々と就寝した。
そして、ゆっくりと目を開けた先には。
昨日と同じ広場が広がっていたのだ。
恵斗は喜びのあまり思わず声を上げそうになったが、静かにガッツポーズだけした。
昨日同様、周りを行き交う人々はやはり恵斗には気がついていないようだ。
恵斗の見立てが正しければ、そろそろ昨日のカトルと言う新聞売りが新聞を売りにこの広場に来るはずだ。
昨日カトルは火曜日だと言っていた。もし彼が今日は水曜日だと言ったとしたら。
夢の中でも現実世界と同じように、時間が過ぎていっている!と証明される訳である。
だからなんだと言われたらそこまでだけど。
まあいい。少しずつだ。
この謎な夢について、俺は解明していってみせる。
意志を固めた恵斗は、広場の噴水の縁に座りカトルが来るのを待った。
「おはよー!!みんなおはよー!!」
住宅街の奥の方から、昨日のように大きな声が近づいて来るのが聞こえる。
来た!!
声の方を見ると、キャスケット帽を被った女の子が広場に走ってくるのが見えた。
「みんなおはよう!水曜日の新聞だよ!」
昨日のカトルとは別の子だが、やはり新聞売りのようだ。
「おはようニキータ!」
「ニキータちゃん、おはよう」
ニキータと呼ばれた女の子は、カトルと同じように新聞を売り始めた。
カトルではなかったがまあ良い。
新聞売りにもきっと当番はある。
それよりもだ。
「水曜日って言った!!!」
恵斗は今回は思わず叫んでいた。
やはり夢の中のこの世界も、現実世界と同じように時が流れている事が分かったのだ。
これは大きな前進だ!
さて、次だ。
「…………」
何をすればいいんだろう。
誰かに話しかけてみるか?そもそも話しかけていいものか?
悶々と恵斗が考えていた時、女の子の声が後ろから聞こえて来た。
「こんにちは」
「えっ」
声を聞いた恵斗が振り返った先に、1人の女の子が立っていた。
肩まで伸びた、夏の空のように澄んだ水色の髪。
細やかな刺繍が入った紺のワンピース。
その上にキラキラと光る白いローブを羽織っている。
この夢の中で誰かに話しかけられたのは初めてだった。
「こ、こんにちは」
誰だろう。
恵斗はおずおずと挨拶を返した。
女の子は、ニコッと笑って恵斗のところに駆け寄ると両手で恵斗の右手を握った。
そして嬉しそうにこう言ったのだ。
「初めまして、上村恵斗くん。会えて嬉しいわ」
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