第44話 星の場所

「姉さま、良かったですね。あのヘタレ男、途中で殴ってやろうかと思いましたよ」


ルイーゼとアンリは執務室にいた。リンクは婚礼の儀式の手配に奔走している。


「そんなこと。私を大事に思ってくれてるってことよ」


「はいはい、ご馳走様です。ところで、姉さまの寝室からリンクがなかなか出て来なかったですが、いったい何をしていたのですか?」


アンリはしれっと聞いてみた。ルイーゼがアセアセし出した。


「わ、私、腰が抜けてましたでしょ? 治療をして頂いていたのです」


アンリは予想外の答えに目を丸くした。


「へえ。変わった治療法ですね」


「な、何を言っているのかしら、この子は」


「でも、本当、リンクと一緒になってくれてよかったです。リンクは絶対に姉さまを幸せにしてくれますよ」


「あら? もう私は十分に幸せよ。そう言えば、リンクは、その、男の人の部分の裏側に星のアザがあるのよ。その星がみるみる大きくなっていくのよ。アンリ、あなたそのあたりのこと、詳しいかしら?」


(この美しいお姫様は、実の娘にどでかい下ネタぶっ込んでくるわねっ)


「さ、さあ、私は生娘ですので、その手の知識はないです」


「リンクに聞いても照れるだけで、何も教えてくれないのよ」


(まだ続けるのっ)


「いずれ教えてくれると思います。リンクは優しいですから。それより、クラウス様が報告があるとのことです」


「ちょうどいいわね。クラウスに聞いてみようかしら」


「ね、姉さま、あまりプライベートなことを他人にお話にならないようお願いします」


「そ、それはそうね。なぜかクラウスとあなたは身内のような気がしちゃうのよね」


「ありがとうございます。クラウス様も身内のように思って頂いて喜ぶとは思いますが、星の話は身内にもしてはいけません。リンクと二人だけの秘密にして下さい」


「分かったわ。それで、クラウスの報告って何?」


「アルバート王に関する報告です」


「アルバート王? 存在をすっかり忘れてたわ。何かあったのかしら。呼んで頂戴」


「では、お呼びしてきます」


執務室を出ると、クラウスはドアのところに控えていた。


(まさか、星の話、聞こえてないわよね)


「クラウス様、ご報告をお願いします」


「かたじけない」


クラウスは部屋に入って、片膝をついて、ルイーゼに騎士の礼をした。


「クラウス、楽にしていいわよ。アルバート王の報告?」


クラウスはいつもの通り、姿勢を崩さずに報告する。


「はい、ルイーゼ様。この前の失態を取り返して参りました」


ルイーゼはキョトンとした。クラウスはルイーゼがいつもにも増して、美しく輝いていることに気づいた。


「失態などあったかしら?」


「股にかすらせなかった件です。改めてかすらせに行ったのです。剣は王の剣を使用し、ルイーゼ様から頂いた剣は使っておりません。ただ、剣に慣れておらず、間合いを見誤ってしまいまして、かすらせるつもりが、ザックリと切ってしまいました。申し訳ございません」


「え? ざっくりとなの?」


ルイーゼがうえって顔になった。


「はい、ザックリと。それで、王は失血死してしまいました」


「それは、何とまあ。でも、ありかな」


クラウスは耳を疑った。


「ありですか?」


「ええ、ありよ。下がっていいわよ」


「その、私への罰は?」


ルイーゼは不思議そうな顔をした。


「え? 何の罰? 迷惑な勘違い男が死んで、みんな喜んでいるわよ。後で褒美を出すわ」


懲罰を覚悟していたクラウスは拍子抜けしたが、もう一つ報告があった。


「もう一つご報告がございます。よろしいでしょうか」


ルイーゼが頷いて先を促した。


「王位をアードレー家に譲位したいと王家が申し入れをしてきまして、どういたしましょうか」


ルイーゼがうんざりとした顔をした。


「面倒なことを言ってくるわね。どうせお父様は私に押しつけるに決まっているわ。後でリンクに相談して決めます。他になければ、早く下がって休養しなさい。あなた、働きすぎよ」


「ご配慮ありがとうございます。失礼します」


(世の誰もが欲しがる王位を面倒の一言か、これだからルイーゼ様の騎士はやめられない)


クラウスは俯いたまま、笑みを浮かべながら、退室した。

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