第23話 無力化
ネズミ男の反応は早かった。
翌日、領主の私兵を数十人も連れて再訪して来た。
ネズミ男と数名の兵士が室内に入ってきた。残りの兵士は外で待機している。多数の兵士がバックにいるので、ネズミ男たちは余裕の表情だ。
ネズミ男が口を開いた。
「おい、昨日の護衛はどうした?」
リンクが対応する。
「家に帰したぞ。不正徴税人、もうアードレー様にお前のことは報告した。沙汰を待てとのことだ」
家に帰したなんて大嘘だ。ルイーゼは四人の男を近くの森に捨てているマッチョ二人を偶然見かけたのだ。アードレー家にも報告なんてしていない。
「適当なことを言うな。農民ごときにアードレー様がすぐにお会いになるはずはないだろうがっ。それよりも領主様のところにお前たち夫婦を連行するっ」
リンクは私の方に振り返って、ネズミ男にも聞こえるように、はっきりとゆっくりとルイーゼにお伺いを立てた。
「どうされますか? ルイーゼ・アードレー様。領主のところに行かれますか?」
ルイーゼはいきなり振られて、すぐには返事ができないでいた。ネズミ男がギョッとした表情になった。
(ルイーゼ様? ご長女の?)
アードレー家の長女は、確か王宮で誘拐されて行方不明になっていると聞いている。非常に美しい方だと聞いているが、まさかこんなところにいるはずがない。
「こらっ、ルイーゼ様は現在、行方不明でいらっしゃる。ルイーゼ様の名を語るなど大罪だぞ!」
「私は正真正銘ルイーゼですわよ。ネズミ男さん」
ルイーゼは何とか声を出したが、少し動転しており、徴税人のことをつい「ネズミ男」と呼んでしまった。
「ネ、ネズミ男?」
ネズミ男は顔を真っ赤にして怒り絶頂だ。リンクはこらえ切れずにクスクスと声を出してしまっている。
「ええい、こんな失礼な女がルイーゼ様のはずはない。お前たち、引っ捕えて連れて行け」
兵士たちが動こうとしたとき、リンクが叫んだ。
「お前たち、ルイーゼ様に手を出したらどうなるかわかっているのか!?」
「この女は偽物だっ! 構わず捕らえろっ!」
ネズミ男が再び命令を出す。
おじさま、おばさまがルイーゼの前にでる。
「おい、じじい、また何かしたら、兵士を突入させるぞ!」
ネズミ男がおじさまを牽制する。
「ネズミさん、どこに兵士がいるの?」
おばさまがキョトンとして質問した。
「ばばあ、目が悪いのか? 外が見えないのか?」
おばさまにもネズミ呼ばわりされた徴税人は口から唾を飛ばして、表の方を指さす。
しかし、開いたドアから見えるのは、うつ伏せになっている兵士ばかり、立っている兵士は誰もいなかった。マッチョ二人が外に立っている。彼らが二人が無効化したのであろう。
「馬、馬鹿な。いったいどうやって!?」
「みんな睡眠が足りていないんだろう。お前、他の農民にも無理難題を吹っ掛けていると聞いたぞ。ルイーゼ様が領主のところになんぞ行くはずはないだろう。領主がルイーゼ様のところに来るべきだ。文句があるなら、領主を呼んでこい!」
リンクの怒号にネズミ男は慌てて逃げ出した。兵士たちもすぐに後を追った。
「あのう、無力化ってどうやるのですか?」
そんなやり取りの途中で、ルイーゼは前にいるおじさまに小声で聞いた。
「生活魔法ですよ。脳内に睡眠物質を生成するのです。魔法をかけられた相手は起きていられなくなって、眠ってしまうのです」
おじさまも小声で答えてくれた。
「ひょっとして、睡眠物質ではなく、毒も生成出来たりしますか?」
「それは難しいです。睡眠物質はもともと体内で生成されるものですから、魔法でも作れるんです。ひょっとすると、毒も生成できるかもしれませんが、そんなことしたら、死んじゃいますよ?」
この人たち、怖すぎるわっ……。
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