第22話 徴税人

楽しかった農民生活も終わりが近づいて来た。


納税の時期になったのである。


「この辺りで保有農にかけられる税はシンプルです。地代だけです。かつてはもっといろいろあったのですが、今は一つです」


リンクの説明によると、この農家は農地の永続的借地権を持っていて、自由度の高い生活が出来る保有農だという。


領内には直営地もあり、そこにいる農民の場合は、領主にかなり隷属的であるらしい。


「ここの昨年の地代は100万円だと未亡人から聞いています。今年の出来だと収穫の半分ぐらいです。決まりでは、この100万が領主に渡り、さらに上のアードレー家に50万が渡るはずです。まずは実地演習と行きましょう」


計ったかのように徴税人が護衛を四人連れてやってきた。


徴税人は背の低いネズミのような男だった。ドアを開けて、ズカズカと家の中に入ってきて、室内が非常に綺麗なことに驚いている。そして、勝手に椅子に座り、ジロリとリンクを睨んでから、いやらしい声を出した。


「何だかいい暮らしをしてるじゃないか。今年の収穫がよかったのか? お前の保有農地の地代は120万円だな。用意してあるだろうな」


そう言って、ネズミ男は奥に控えているルイーゼを見つけて、目をパチクリさせた。


(極上美人じゃないか! こんな農民いたか? 領主様に報告すべきだな)


リンクがネズミ男の視線をルイーゼからリンクに戻させた。


「昨年は100万円でしたので、それだけしか用意してないのですが」


「何だと!? 俺の査定に文句があるのか? まあ、いいや。100万でもいいが、その場合は女房を賦役に提供しろ」


「賦役分は100万に含まれているのでは?」


ネズミ男が机を叩いて立ち上がって凄む。


「お前、いちいち反抗的だな。畑作業が出来なくなってもいいのか?」


「いや、よくないが、お前、不正徴税人か? アードレー様に報告するぞ」


保有農は領主の不正をその上の貴族に直訴する権利がある。


「こいつ、痛い目にあわないと分からないようだな。おい、お前たち、痛めつけてやれ。あと、女を連れて行け。領主様に献上する」


護衛の二人がルイーゼの方に近づいていくと、ルイーゼの近くにいたおじさまとおばさまがルイーゼの前に出た。


「おいおい、爺さん婆さんで嫁を守る気か? 怪我しないうちに……」


護衛の一人が話し終えないうちに倒れた。


「え? 何が……」


もう一人の護衛も何が起きたのか分からないうちに倒れた。


同時期にリンクに手を出そうとしていた他の二人の護衛も倒れていた。


「お、お前たち、どうやって!? そ、それよりも俺たちにこんなことをしてただで済むと思っているのか!」


ネズミ男が騒ぎ立てた。


「いや、何もしていない。お前の護衛が勝手に寝てしまっただけだろう。疲れているみたいだが、こき使いすぎじゃないのか?」


リンクはしれっと答えた。


「こ、こいつ。ただで済むと思うなよっ。領主様に報告するからなっ」


そう捨て台詞をはいて、護衛を置いたまま、ネズミ男は逃げるように出て行った。


「こんな粗大ゴミ置いて行くなよな」


リンクがぶつぶつ言っている。


「あのう、その人たち、死んでいるのでしょうか?」


ルイーゼが心配そうに尋ねた。


「「いいえ、無力化しただけです」」


リンクとおじさまが同時に答えた。

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