第16話 開店

「ルイーゼの酒場」一号店が王都の繁華街に開店した。


ターゲットは衛兵、傭兵などの若い男性客だ。メニューはボリューム重視で味は濃い目に設定している。味を濃くすることでお酒をたくさん飲んでもらうという狙いもある。


初日は開店記念として、一杯目のドリングを無料にして、集客を行った。一度、リンクの料理を食べれば、リピート客になることは間違いないため、ペイできると考えたのだ。


配膳係は容姿とスタイルを重視して採用した。同じ技量ならば、器量の良い方が集客力にプラスだからだ。事前の訓練もみっちりと行っている。


来客数や客単価や回転率などの指標が売上の分析に必要だとリンクから教わり、各種数値をしっかりと記録するよう会計係への指導も行った。


王宮の一部の衛兵やアードレー家の傭兵などに事前に宣伝活動をしていたことが功を奏したようで、酒場は初日から大盛況だった。


手が足りていないところが出て来たので、ルイーゼも配膳を手伝おうとしたら、店長からそれだけはやめてほしいと懇願され、あきらめた。


確かにルイーゼの顔はそこそこ知られているので、ちょっとまずいかもしれない。


ルイーゼは店のオーナーではあるが、店の運営は店長に任せている。リンクやアンリも教官役に徹している。このスタイルでいかないと、店舗の拡大は難しいということで、最初からこうすべきとリンクから言われたのだ。


一号店の採算が立つようになったら、二号店、三号店とチェーン展開するつもりだが、こういった店舗展開も、そういったことに長けた人材を見つけ出して、実務は人に任せるようにとリンクから教えられた。人を使うのがルイーゼの仕事であると。


「姉さま、盛況ですね。売上の数字を見て来ましたが、目標額には余裕で行けそうです」


アンリが売上の中間報告に来てくれた。


「報告してくれてありがとうね。リンクさんは?」


「ずっと厨房を見てますよ」


「そう」


「一緒に見に行きませんか?」


「そうね。そうしようかしら」


アンリと一緒に厨房に行くと、リンクが厨房を巡回して、気づいたことをそれぞれの担当に指導していた。真剣な横顔が格好良すぎる。


ルイーゼに気がついて、リンクが笑顔で近づいて来た。


「ルイーゼさん、どうされました? 何か問題でも?」


「いいえ、すべて順調です。ちょっとリンクさんの様子を見に来ました」


「そうですね、厨房は小さな問題がいくつかありますが、すべて調整可能です。大きな問題はないですかね。ところで、数字はどうですか?」


リンクが少し心配そうに聞いた。厨房は料理の売上は把握しているが、酒類は彼には分からないのだ。


「時間的に半分終わって、目標売上の四分の三だから、目標は行けそうだよ」


アンリがサムズアップしている。


「それは良かった」


リンクがホッとしている。リンクも絶対的な自信があった訳ではなかったようだ。


「これも、リンクやアンリのおかげです」


ルイーゼは心底そう思っていたため、二人に深々とお辞儀をした。


リンクが慌てて止めにかかるが、不用意にルイーゼの体に触れる訳にはいかない。


「ルイーゼさん、頭を上げて下さい。アンリ、ルイーゼさんを止めて!」


アンリがルイーゼに抱きついて、礼をやめさせた。


「お二人にはどうお礼をしていいのか」


それでもなお顔を上げないでいるルイーゼに、リンクとアンリは顔を見合わせて微笑み合った。


リンクがルイーゼを優しく見つめてから、話しかけた。


「もうお顔を上げて下さい。それでは、お礼として、今日の閉店後の皆んなとの打ち上げから抜け出して、我々二人の慰労会を、アードレー家の離れでして下さいますか?」


「ええ、もちろん」


ルイーゼがようやく顔を上げると、ルイーゼに優しく微笑みかけているリンクがいた。

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