第11話 自由のための勇気

ロバートは案内人の捜索隊員と護衛二人を連れ、酒場へと入っていった。


「いらっしゃいませっ」


会計台にいる少女アンリが声をかけてきた。


(なるほど、報告通りの美しい少女だ)


とロバートは思った。


酒場は思った以上に大きく、百人以上の客でごった返していた。テーブルとテーブルの間を何人かの給仕係の女性が器用にスルスルと通り抜け、せわしなく配膳を行なっている。


「四人だ。空いているか?」


調査員がアンリに尋ねた。


「お客さん、すいません、本日は満席でして、お待ちのお客さんが二十組ほどいらっしゃいますので、多分今日はご案内出来そうもございません」


ロバートは調査員と少女の会話の半分くらいしか分からなかったが、満席だというのは分かった。


ロバートは構わず貴族のアクセントでアンリに尋ねた。


「ルイーゼという女性を探している。知らないか?」


アンリは全く動じず庶民のアクセントで答えた。


「私の姉がルイーゼですけど、姉のことでしょうか。おじさんはいったい誰?」


調査員があの変顔の姉ですと耳打ちした。


ロバートが捜索は空振りかと考えている後方で、ルイーゼはドキドキしながら配膳をしていた。


(お父様だわ。あんな格好までして探しに来るなんて、よほど王室から圧力を受けているのかしら)


ルイーゼは厨房に戻ったときに、リンクに父親が酒場に来ていることを伝えた。


「ルイーゼさん、組織から先ほど情報が来ました。アードレー家は皇太子との婚約を解消してあなたを守るつもりです。どうします? 家に帰りますか?」


私は両親が守る判断をしてくれて素直に嬉しかったが、自分の意思のないあの生活に今更戻りたいとは思わなかった。


「リンクさん、私、今の生活を続けて行きたいです!」


リンクはにっこりと微笑んで、私の目をしっかりと見た。なぜか私の鼓動が速くなって行く。


「では、お父さんにその思いを正面からぶつけて下さい。家に連れ戻されてしまうようでしたら、また逃してあげます。だから、安心して下さい。怖がらないで、思ったことを話し、思ったように行動して下さい。『居住移転の自由』と『職業選択の自由』があなたにはあります」


私はリンクにしっかりと頷いてから反転した。父の方に向かって力強く歩いて行く私を見つけて、アンリが驚いている。


「酒場の主人には私から言っておきますから、じっくりと話して来て下さい」


背中からリンクの声が聞こえた。


(ありがとう、リンクさん。あなたが後ろにいてくれるから、沢山の勇気を貰えます。私は生まれて初めて、自分の気持ちを父に話します)


私は父の後ろまで来た。護衛の二人が父を守るために、私の前に出ようとして、私がルイーゼだと知り、驚いて足を止めた。


「お父様」


私は父の背中から呼びかけた。

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