第六十二話

[第六十二話]


「と、とにかく、旅はこの九人で行くということで」


 まずい雰囲気なので、俺は強引に総括する。


 一刻も早く話を終わらせたい。これ以上シズクさんから怒られるのは嫌だ。


「……話はまだ終わってないのだけれど」


「ま、まあまあお姉さま。きっと後々やらかしますから、今は辛抱ということでよろしいんじゃありませんこと?」


 おい。後々やらかしますからってなんだ。聞き捨てならないぞ。


「……ローズがそこまで言うなら、許してあげる」


 ほっ。なんとかなったな。


 俺の平和のために、これからもっとポーカーフェイスを活用する必要があるか。


「それでは本日はこれで。ごきげんようですわ」


「ごきげんよう」


 嵐のように二人は去っていった。


 あれ、俺に用事があって来たんじゃなかったのか。


「女というものは恐いな、トールよ」


「ああ、全くだ」


 普段ならいがみ合っている俺と”知識の悪魔”でも、『女性は恐い』という点は全面一致するのであった。



 ※※※



 嵐は去った。


 さ、さて、気を取り直して調薬しようかな。


 現在俺が持っているアイテムは、今回手に入れたものを合わせて、


 ナオレ草×231、アヤカシ葦×196、イッタンモメン×165、ネムレ草×129、ヨクナレ草×4、ココデアサリ×124、ココデハマグリ×53、ココデマツ×142、ヤドカリヤシの木材×37、ヤドカリヤシの実×23、ヤドカリヤシの葉×119、ヤシヤドカリの殻×37、ヤシヤドカリの脚×85、ヤシヤドカリの鋏×72、ココデイモガイの割れた殻×1、ココデイモガイの歯舌×29、ココデイモガイの毒液×27、ココデイモガイの殻×35、ココデオオシャチの牙×34、ココデオオシャチのひれ×13、ココデオオシャチの肉×41、ココデオオシャチの骨×7、ココデ海岸の砂×いっぱい。


 魔物の素材が多すぎて、ごちゃごちゃしているな。

 

 調薬に使えるものだけをピックアップすると、


 ナオレ草×231、ネムレ草×129、ヨクナレ草×4、ココデアサリ×144、ココデハマグリ×61、ヤドカリヤシの実×23、ヤシヤドカリの脚×85、ココデイモガイの毒液×27、ココデオオシャチの肉×41、ココデオオシャチの骨×7


 になるな。これでも多い。


 あ。


 海水を取りに行くことをすっかり忘れていた。アサリの砂抜きができないじゃないか。

  

 なにかをしに行って、その目的を忘れて他のことをして帰ってくる。


 よくあると思います。あるよな?皆も。



 ※※※



 再三のカットを挟みまして、ついに始めますか、調薬を。


 ”知識の悪魔”のネタバレによると睡眠薬はネムレ草だけだと効果が薄いらしく、またアサリとハマグリは砂抜きができないので、この三種類を使うのはなしで。


 さらに、ヤドカリヤシを割ると得られるココデナッツミルクとココデナッツジュースも調薬に使えそうなのだが、硬い表皮を割るノミのようなものを持っていない。こちらもパスで。


 となると、まずはヤシヤドカリの脚を使った疲労回復薬の調薬だな。


 カニの脚のように硬い殻の中に柔らかい身が詰まった構造をしたこの素材は、殻の部分か身の部分か、それとも両方に効能があるのかわからない。


 なので、三パターン作ってみる。


 まず、ヤドカリの脚をそのまま『アクア・クリエイト』で張った水が入った鍋にぶち込み、ぐつぐつと煮る。


 灰汁を茶こしですくいながら十分煮たら、脚を取り除いて、試験管に注いで出来上がり。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:微

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量がわずかに増える。刺激の強い味。


 また効果が微だな。まだまだ改良の余地があると見える。


 次はパターン2だ。殻から解した身だけを煮て、同じように回復薬を作ってみる。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:微

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量がわずかに増える。旨味のある味。


 ん?味が微妙に変わったな。殻が雑味を生んでいるのか?


 味はプレイヤーが飲む分には関係ないが、商人に売るときの価値が変動する。おいしければおいしいほど高く、まずければまずいほど安くなる。


 パターン3も一応やってみる。さっき身だけを使って、余った殻を鍋に入れ、煮て試験管に入れる。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:微

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量がわずかに増える。刺激の強い味。


 効果がパターン1と一緒だな。となると、なにか素材が足りないのだろうか。


 ふと思考を発展させてみる。そういえば今回手に入れたアイテムの中に……。


「これだろ」


 俺はあるアイテムを取り出した。


 それは、ココデオオシャチの肉だ。こいつには疲労回復:中の効能がある。


 てっきり食べることで消費する素材かと思ったが、ヤドカリの脚と煮てみるのはどうだろうか。出汁をとるイメージだな。


 早速やってみる。『アクア・ソード』でぶつ切りにしたシャチの肉とそのままのヤドカリ脚を入れ、一煮立ちさせて完成。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:中

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。刺激が強いが、旨味にもあふれる味。


 おお!効果:中の疲労回復薬ができたぞ!味も少し変わってるな。


 あと試してないパターンは肉のみの場合と、肉と殻、肉と身の場合だな。


 検証の結果、肉のみの場合がこちら。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:小

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が少し増える。旨味にあふれる味。


 肉と殻の場合がこちら。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:中

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。刺激が強いが、旨味にもあふれる味。


 最後に、肉と身の場合がこちらになっております。


〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:中

 疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。旨味にあふれる味。


 これでだいぶ相関が分かってきたな。


 疲労回復効果のあるココデヤドカリの身(ココデオオシャチの肉)の部分を煮ることで、疲労回復薬を作れる。このとき、複数の種類を組み合わせることで効果の高いものにできる。


 また、雑味のある部位(今回はヤドカリの殻)を入れると、『刺激の強い』味になってしまう、と。


「おもしろい……」


 これは研究し甲斐があるなと思いながら、俺はさらに調薬を進めていくのだった。

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