第二十九話
[第二十九話]
「どんどん行こう、トール」
「あのー、いったいいつまで……」
「メカトニカを復活させるまで」
ええ…?
シズクさんの機転により『エンシェント・シールド・ゴーレム』に快勝したが、彼女の意志は変わらないようだった。
「このペースでいけば、パーツを集めきれるかもしれない…」
シズクさんがそう言い、首を動かして周りを眺める。
俺も真似してみる。
今まで気づかなかったが、大広間からは俺たちがやってきたのとは別に五つの通路が伸びていた。
文献を信じるのであれば、メカトニカの起動に必要なパーツは全部で六つ。
ここでゴーレムを倒したから一つ手に入ったから、残りは五つ。
そして、分かれ道もちょうど五つ。
まさか、順々に攻略していけということか?
………。
ええい、ままよ!
「いきましょう、シズクさん!」
「トールも勢いが出てきた。今日中に残り五つのパーツを集める…!」
俺が乗り気になると、シズクさんは今日一番の大きな声で宣言するのだった。
あれ?
でも、なんだか嫌な予感がする。
こういうときって、確か…。
※※※
数分後。
案の定、俺とシズクさんは死に戻りした。
やっぱり、彼女の宣言は死亡フラグだったか。
もともと鉱山内の通路には、ロックゴーレムとロックリザードの上位種、アイアンゴーレムとアイアンリザードしか出現しないはずだった。
しかし、大広間から伸びる通路にはこれらの他に、新しい魔物が現れるようになった。
それが、カナリアスケルトンだ。
白骨化した小鳥のような見た目のその魔物は、なぜか声帯がないのに鳴くことができる。
あいつは俺たちを見つけたら、「ピピピピピッ!」と大きな声でさえずった。
すると、その音を聞きつけた周囲の魔物が洪水のように襲いかかってきて…。
見事に死に戻りしたのだった。
「まさか、あんなのがいるなんて」
「しょうがないですよ。対策必須な魔物だったんですし、死に戻りするのも」
俺は意気消沈するシズクさんを励ます。
ただでさえ硬い廃坑の魔物が、大挙して押し寄せてくるのはどうしようもない。熟練のパーティですら、凌ぐことは難しいだろう。
「うう、せっかくメカトニカに乗れると思ったのに……」
「え…」
何を言い出すかと思えば、あの採掘機会に搭乗しようとしていたのか…。
そういえばこの人、静のお姉さんだった。
どこか変わったところがあると思っていたが…。
もしかしてロボット好きなのか?雫さん。
「と、とりあえず今日は解散しましょう。なにか策を練ってから攻略を再開しましょう」
「…そうする」
立ち回り次第で攻略できそうなら粘りたいのだが、俺とシズクさんだけでは逆立ちしても無理だ。
それは彼女も分かっていたようで、すんなり折れてくれた。
いつの間にか、時刻は二十二時。
死に戻りで王都に戻ってきていた俺たちは、中央広場でログアウトするのだった。
※※※
あの後超遅めの晩ご飯を食べて、入浴後に寝た。
今日は四月九日火曜日。
授業と三回目のバイトがある日だ。
「…眠い」
窓から注ぐ朝日が眩しい。
少しぼーっとしてからタブレットをチェックすると、読書部の発表用資料の件について、あすかさんから『オッケー!』と返信が来ていた。
いっぱいダメ出しされるかと思ったが、よかった。
これからも、丁寧で分かりやすいスライドを心がけて作っていこう。
「そろそろだな」
朝ご飯のトーストとスープを平らげ、スマホでニュースとネットサーフィンをして時間を潰した後。
俺は寝間着から私服に着替え、トートバッグを肩に提げて桜杏高校に向かう。
学校を目指す生徒は何人かいたが、今朝は友達に会わずに校舎に着いた。
一年二組の教室に入ると、昇たちがすでに着席済みだった。
「おはよう、透」
「おはようですわ」
「おはよう」
「おはよう、皆早いんだな」
「透が遅いんですわ。もうすぐ始業時間でしてよ」
そうだったか。
部屋を出た時間は普通だったが、昨日の狩りが大変で、疲れが歩くスピードをゆっくりにさせていたのかもしれない。
「授業が始まるよ。集中しよう」
などと考えていると、彰が注意してくれる。
話し始めると視野が狭くなってしまうな。ちゃんと言ってくれるのは助かる。
未だに眠いが、しゃんとしないとな。
というわけで俺と昇、彰、静の四人は、午前中の授業に取りかかるのだった。
※※※
「昨日は大変そうだったと見えるね。授業中もぼーっとしてたし」
長く感じた授業の時間が終わり、現在はお昼休み。
いつもの席に座っていただきますしてから、彰が俺に話しかけてくる。
「ああ。採取に狩りに、大変だったよ」
「私も昨日はたくさん狩れました。おかげでタメルがたんまりですわ」
「あっ、それ僕に売ってくれればよかったのに。大森林の素材なら高く買うよ」
「そうでしたの!?なんだか損をした気分ですわ…」
「俺はログインできなかったなあ。陸上部の練習がきつくてな」
「あんまり無理しすぎるなよ。体が第一だからな」
「ああ!サンキュー、透」
こんな会話を繰り広げながら、昼食を食べ進めていく。
聞いている感じでは、ローズは調子がよく、フクキチは順調に商売ができているようだった。
ライズは時間が取れなかったようだが、焦る必要はない。
誰と競っているわけでもない。自分のペースで遊ぶゲームが一番楽しいだろう。
「こんにちは、少しいい?」
そんなことを思っていると、俺たちの前に一つの影が現れた。
「あっ!」
その人物の姿を見て、俺は思わず声が出てしまう。
果たして、その人物とは…。
「私は倉持冴姫。そこの透くんと同じ読書部の二年生」
きれいなロングヘアーの黒髪に、シックな色合いのブラウスとスカート。
読書部の先輩の一人である、冴姫先輩だった。
まずい!
俺の口からはとても言えないが、とてもまずい!
「突然だけど、三人の名前を聞いてもいい?」
二言目には、相手のことを尋ねる質問…。
まずい、掛け合わされてしまう!
ある意味最も危険な人物を前に、俺は心の中でファイティングポーズをとるのだった。
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