第八話

[第八話]


 王都周辺は、丈の低い草が茂る草原のフィールドになっている。


 名前は『ガルアリンデ平原』。ここ、王都を首都とする王国の正式名称を『ガルアリンデ王国』というので、周辺に広がるこの平原もそう呼ばれるようになった。


「しかし、広いな」


 一人呟いた俺の声も、そよ風に消える。


 日が沈み遠くの方は真っ暗だが、王都を囲む外壁には間隔を空けて松明が置かれているので、多少は安全だ。


 ガルアリンデ平原に生息する魔物は、昼と夜で異なる。


 ファングウルフはもはやお馴染み。鋭く大きな牙が特徴の、茶色と白の毛並みをした狼の魔物だ。ガルアリンデ平原では昼夜問わず一匹でうろついており、後述するグリーンラビットを捕食する。人を見かけると襲い掛かってくるアクティブタイプ。


 グリーンラビットは、薄い緑色をした小型のウサギの魔物だ。大きな耳をぴんと立てて光合成をすることで、栄養を摂取している。そのため、日の当たるところに身を置く必要があり、天敵に見つかりやすいという悲しい運命を背負っている。臆病な性格で、人を見つけるとすぐに逃げ出してしまうノンアクティブタイプだ。昼にのみ出現する。


 モグモグラは茶色いモグラのような魔物。目が退化しているにもかかわらず、地中で捕まえた虫を地面の上に出てから食べるので見つけやすい。ノンアクティブで、プレイヤーの歩く音を検知して逃げ出す。昼夜問わず出現する。

 

 ウインドイーグルは、上空から風属性の刃を飛ばしてくる昼間の害悪な魔物だ。ただし頭がよくないので、好き勝手に魔法を好きに打たせておくと魔力が枯渇して墜落する。そのため乱獲が進み、平原周辺では個体数が少ないレア枠になったとか。


 ストレンジワームはカラフルなでかいミミズで、モグモグラの主食だ。地中にいることが多いが、たまに地面を這っているらしい。倒した攻撃の属性によってドロップするアイテムが変わる特徴があり、主に調薬や錬金といった生産に使われる。一日中現れる魔物だ。


 キャンユーフライは夜間の超害悪な魔物。ハエをでかくした気持ち悪い見た目で、発達した前足を必死にこすり合わせている。耳障りな羽音が近づいてきたら要注意。前足で外敵の体を掴んで上空へと運び、高所から落下させることにより、地面に叩きつけられ破裂した死骸から血をすする。魔物、人間問わず、複眼の視界に入ったあらゆる生者をターゲットにする。ただ、血の匂いに誘引される習性を利用して、上手くおびき寄せることもできる。夜にのみ出現する。水辺に数十個の卵を産み付け、ふ化した幼虫(蛆)は水の中で育つ。ゲーム内の魔物生態学者の研究によると、幼虫は水中のプランクトンや小さな昆虫を捕食して成長し、ふ化後三日ほどで成虫になるとされている。


 シャドウレイブンは、夜にのみ出現するカラスの魔物だ。光を嫌うため、明かりを持っていると出会えない。キャンユーフライを主食にし、暗がりにフライの死体を放り込むことで簡単におびき寄せられる。賢く、闇属性魔法を使って遠巻きに攻撃してくる。


 とまあ、こんな感じだろうか。画像、映像のネタバレが嫌で攻略サイトは覗かなかったので、シズクさんに口伝で色々教えてもらった。


 夜はめんどくさそうな魔物が出てくるようだが、それなりの覚悟はしていた。


 しかし、流石に暗すぎる。松明を拝借できないか?

 

 そう思い王都の外壁に手を伸ばして松明を握ったが、きつく固定してあるようだ。


 明かりぐらいなら、500タメルでも用意できたか?


 しょうがないので、明かりを持たずに夜の平原を歩く。


 参ったな。目の前の三メートルぐらいしか見えない。


 耳を澄ませると、ところどころから獣のうなり声が聞こえる。腹をすかせたファングウルフだろう。


 とはいえ、今夜の俺のお目当てはアイテムじゃない。その先にあるもの、金だ。タメルだ。


 攻略サイトの『職人掲示板』では、調薬が手ごろに稼げるかつ、地味であまり人気がなく、職業人口が少ないと聞いた。


 装備のショッピングでも、タメルがいかに大切かを思い知った。


 さらに聞くところによると、[AnotherWorld]の社会の市場には需要と供給があり、魔物には習性と生態があるという。


 これを利用しない手はない。スタートダッシュで大儲けだ。


 

  ※※※



 数分後、王都から離れすぎておらず、適度にくぼんだ地形のある場所を見つけた。


 途中何度か魔物に遭遇したが、全てダッシュで撒いた。危険なハエは羽音が分かりやすいので、鉢会う前に逃げることにしている。


 雨が降れば水たまりができるような、緩く傾斜のあるくぼみの縁に立ち、俺は魔法を唱える。


「『アクア・クリエイト』」


 瞬時に、顔が洗えるくらいの量の水が目の前に出現し、すぐに重力に従ってくぼみに落ちていった。


「『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』……」


 何度も同じ魔法を繰り返す。一回一回は少量でも、集まればそれは大きなうねりとなる。


「『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』……」


 数えきれないほど『アクア・クリエイト』を発動する。とりあえず50回くらいでいいか。


 練習場で試してみて気づいたが、『アクア・クリエイト』で生み出した水はその場に残り続ける。そのため、くぼみには徐々に水が満たされ、いつの間にか小さな池ができていた。


 魔法の連続使用で魔力を50ほど消費し、キャラクターレベルと職業レベルが3に上がっていた。体力は一ずつ上がって103に、魔力は五上がって105になっていた。


 こんなもんで大丈夫か。こっちの準備も時間がかかるし、血はまかなくてもいいな。


 俺は来た道を引き返す。


 エリアマップがあるから、迷わずに帰れそうだ。


 魔力が半分ほど余ったので、襲ってきた魔物を適当に迎撃してアイテムに変換する。


 そんな感じで黙々と歩いていると、王都の外壁の明かりが見えてきた。


 時刻は二十一時三十分。あまりに早く戻ってきたので、門番のおじさん騎士は夜の散歩としか思わないだろう。できればそうだといいんだが。


 大きな扉をくぐり、街を出るときと同じように騎士の人に身元をチェックしてもらう。どうやら、外から入ってくるときはオミナさんという女性の方の担当らしい。


「こんばんは。ずいぶん遅い時間ですが、アラニアからお越しですか?」


 数十分前の痴話喧嘩で近くにいたのに、オミナさんは俺のことを覚えていないようだった。怪力と引き換えに物覚えが少し、アレなのかもしれない。


 とはいえ、おじさん騎士の姿もなく、僥倖だ。ちなみに『アラニア』というのは、王都の南にある大きな街だ。


「まあ、そんなところです」


 適当に受け答えし、入れてもらう。そのまま噴水広場に向かう。


 町の出入りを誰かに見られたくないなら、死に戻りすればいいじゃないか、という意見があると思うが、それはそれで問題がある。タメルがなくなってしまうのだ。この後はホテルハミングバードに泊まる予定だが、そこの最低グレードの部屋でも、一泊500タメルが必要だ。現在の所持金がぴったり500タメルなので、死に戻りすると宿に泊まれなくなってしまう。


 じゃあ泊まらなければいいのでは、という意見もあると思うが、それだと魔力が回復しきらない可能性がある。


 このゲームには、ログアウト中、経過時間ごとに消費した体力と魔力がじわじわと回復していくという仕様がある。しかし、宿泊施設や自宅以外の場所でゲームを終了するとそれらの回復量にペナルティが課せられてしまうと言われている。まあ、この仕様について検証したプレイヤーもいたが、どうやら日ごと、個人ごとにランダムに回復量が設定されるらしく、お手上げのようだった。


 さらに、ホテルや宿屋、旅館といった宿泊施設の部屋のグレードによって、翌日にバフ、デバフがつくらしい。これも確率で発生する。


 よって、泊まるのにお金をかけるのなんて、とバカにすることもできない。


 なんてことを説明しているうちに、どんちゃん騒ぎの大通りを抜けて噴水広場に到着した。


 ホテルハミングバードは、白く塗ったレンガ造りの建物だ。横幅はエクリプス装備店と同じくらいだが、高さはこちらの方が高い。高級ホテルにあるような回転式のガラスドアからは、きらびやかな光に包まれたフロントが見える。


 俺は早速入口に向かい、ドアを開けて中に入った。


 受付には、ひょろっとした男性の従業員が背筋を伸ばして立っていた。


 ホテルハミングバードの一階は、フロントとラウンジを兼ねたフロアだった。二人一組のテーブル席がいくつか並べられているが、今は誰も座っていない。壁際にはバーカウンターが拵えられている。さらにフロントの左手には、大理石のような石材でできたエレベーターが二基ある。


「こんばんは、ご宿泊ですか?」


 受付の男性は、ベースボールキャップにポロシャツとスウェット、右手にはサンゴの杖を握った俺を見ても眉一つ動かさず、だいたい30度くらいのお辞儀をした。


「はい、一階でお願いします」


「かしこまりました。お名前を伺ってもよろしいですか?」


「トールです」


「ありがとうございます。一泊500タメルになります」


 男性がそう言うと同時に、『ホテルハミングバード王都店の一階に宿泊します。よろしいですか? 宿泊費用:500タメル』というウインドウが出たので、俺は『はい』を押して了承する。


「確かに頂きました。お部屋へはあちらのドアからご入室できます」


 彼はそう言って、すらりと伸びた腕で右側を指した。そこには白い木製のドアがある。


「こちらこそ、ありがとうございました」


 俺はお礼を返し、促されるままに扉を開けて中に入る。


 扉の向こうには、洋風のシングルルームが広がっていた。


 部屋の手前の入口付近の扉は、洗面所と浴槽、トイレが一体になっているユニットバスにつながっている。客室は、正面にベランダへと出られる大きな窓があるが、今はカーテンがしまったままだ。部屋の中央には白くしわのないシーツの敷かれたシングルベッドが置かれており、瀟洒な意匠が施されたサイドテーブルの上には置き時計がある。さらに、白く清潔感を感じる壁にはきれいな風景画が飾られている。


 ここで、フロントから直接客室につながっているのはおかしいと思う人もいるだろう。


 そう思うのももっともだが、流石は[AnotherWorld]だ。実はこの部屋、魔法使いギルドの練習場のようなパーソナルスペースになっている。そのため、客室につながる廊下は存在せず、それぞれの階数に通じる扉を開けるだけで部屋に着くし、どんなに客が押し寄せても、満室になることはない。


 先ほどフロントで「一階でお願いします」と言ったのは、階数によって部屋のグレードが分かれているためだ。ここホテルハミングバード王都店は全六階で、一階が一番安く、階が上がるごとに宿泊費も上がる。


 とまあ、ホテルについてはこんな感じだ。もうすぐ二十二時だし、今日は終わりにしよう。


 ベッドに近づくと、『眠りにつきますか?』というウインドウが出現する。『はい』を選択すると、勝手に体が動きベッドの上に五体を投げ出した。


 ふと天井を見ると、照明が柔らかい光を放っている。


「明日はそんなに遊べなさそうだが、『やること』があるからログインしないとな」


 俺のアバターは、そのままゆっくりと目を閉じる。視界が徐々に狭まり、黒に覆われていく。


 なるほど、こんな感じでログアウトするのかと、このゲームの完成度の高さをかみしめているうちに、やがて完全な闇に包まれ、[AnotherWorld]のログアウトが完了した。



  ※※※



――よう、トオル!お疲れさま!もう夜も更けてきたが、元気か!?


「ちょっと疲れたな。また明日。ちびドラゴン」


――ちびではない!!生育途中なだけだ!!!


 眠気が迫ってきたので、ちびドラゴンとのじゃれあいもそこそこに、俺はVR空間からもログインした。


 それにしても、ちびドラゴンを始めとするAIは、特定の単語に反応して専用のレスポンスを返してくれるようだ。なんて優秀な人工知能だろうか。


 気づけば、まだ高校で着てた服のままだ。


 いそいそと寝間着に着替え、ベッドに潜り込む。


 ついさっき、[AnotherWorld]の中で同じ行動をしたが、ゲームと異なり、リアルに感じる眠気がそこにあった。



 ※※※



 翌日。


 朝食を済ませて桜杏高校に登校した俺たちは、教室でホームルームを受けていた。


「皆いるな、おはようさん!今日から通常授業が始まるから気を抜かずにな!あと寝るなよ!」


 相変わらずアロハシャツに短パンといった風体の我らが担任、アロハ短パンが大声で俺らに言う。

 

 俺は昨日、VRゲーム部の集会で居眠りしてしまったので、少し反省しつつ聞いておく。


「一時間目は、このまま俺が担当する数学だ!五十分から始めるぞ」


 今日は四月三日の水曜日だ。


 一年生の水曜日の時間割は、一時間目に担任が受け持つ授業から始まり、担任がローテーションする形で二時間目、三時間目、四時間目と続く。俺たち二組の場合は、一時間目にアロハ短パンの数学、二時間目に一組の担任の国語、三時間目に四組の担任の理科、四時間目に三組の担任の社会科という感じだ。


 桜杏高校の授業では紙の教科書が必要なく、タブレットの教材アプリによって電子上で学ぶことができる。こういったアプリは入学の際に授業料として支払われており、決して安く済むというわけではないのがつらいところだ。しかし、全ての科目の教材をアプリ一つで学習できるため、重くてかさばる教科書を持ち歩いたり、余計な忘れ物が増えることがないのは、良いところといえるな。


 午前中の一~四時間目は、初回ということもありほとんどがイントロダクション、授業の進め方や各回でどのようなことをするかといった説明が主だった。


 なので、ばっさりカット。


 さて。ということで、退屈な授業も一区切り。今はお昼休みの時間だ。


 俺、昇、彰、静の四人は、校舎一階の食堂で昼食を摂っていた。


「しかし、つまんなかったな」


 思っていることはみんな同じなのか、きつねうどんの揚げを頬張りながら、昇が呟いた。


「しょうがないよ。教材アプリなんて、今日初めて触ったから使い方なんてあんまりわからなかったし」


 彰は親子丼にがっつきながら、昇にレスポンスする。


「だからって、同じような説明を四回繰り返されるこっちの身にもなれっての」


 昇の言う通り、一時間目のアロハ短パンから四時間目のひょろ眼鏡スーツに至るまで、アプリの開き方、タッチペンを使った書き込み方、マーカーの色の変え方、付箋のつけ方、編集の保存方法など、教材アプリのシステム面といった説明をしていた。


 毎回ほぼ同じことを教えられるので、飽きっぽい昇にとっては酷な時間だっただろう。


「確かに、あれはしつこかったよな」


 ハンバーグ定食をゆっくり食べながら、俺も口を挟む。


「まあ、長くても今週いっぱいの辛抱ですわ」


 アジの開きの骨を取るのに四苦八苦していた静は、細かい作業に歯を食いしばりながら言う。


「あ、そうだ!」


 どんぶりを傾け、つゆまで飲み干した昇が急に大きな声を出す。


 あれ?大盛りを頼んでいたはずだったが、いつものごとく食べるのがはやいな。


「どうした、昇?」


「ごほっ、ごほっ!」


 俺はすぐに聞き返し、隣の彰はご飯が詰まったのかむせ始める。


 彼はグラスのお冷をあおると、


「いきなり大きな声出さないでよ、びっくりしたじゃん」


 と返す。


「悪い…。いや、すっかり忘れてたんだけどさ、今週の金曜日か土曜日か日曜日に、パーティ組んで[AnotherWorld]遊んでみないか!?三人とも時間あるだろ?」


「いいですわね。賛成ですわ」


 骨だけになったアジを乗せた皿をどけながら静がうなずく。


 だから、食べるのはやくないか?


「僕もいいよ。昨日で色々コツはつかめたし、もう少しプレイすればチームでもいけると思う」


 彰も乗り気のようだ。そんな彼が食べていた親子丼も、いつの間にか空になっている。


 え?まだ食べ始めて五分くらいしか経ってないよな?俺が遅すぎるのか?


「俺もやりたい。何曜日にするか?」


「俺はいつでもいいぜ。ちょくちょくランニングとかしたいから、ずっとはやれないが」


「僕は土曜日が厳しいかな…。実家に帰る予定があって」


「一学期が始まってまだ一週間しか経ってないけど、もう帰省するのか?」


「実は、一人暮らしに慣れるために三月初めから入寮しててね。こっちに来て一か月以上経ってるんだ。だから、授業が始まって上手くやれてるっていうのを直接家族に伝えておきたいなって思って。それに、中学の頃勉強してたプログラミングの本とか、意外とVR開発部の活動でも使えるみたいで、取りに帰ろうと思って」


 桜杏高校の生徒は遠方から来る人が多いので、一人暮らしの始まりと学期の始まりが被って負担にならないように、三月から寮に住むことができる。かくいう俺も、半月前から今の部屋に住んでいる。


「偉いですわね。私なんて通話やメールで済ませてしまいますもの。週末の予定に関しては、私は日曜午前は園芸部の活動で都合が合いません。それ以外なら大丈夫でしてよ」


「俺はいつでもいけるぞ。土日のどっちかで買い出しに行こうと思ってるくらいだからな」


 これからは毎週末の一日を使って、麓の大型ショッピングモールで買い出しに行こうと考えている。食材や日用品など、両手に抱えきれないほどの量になると思うが、これも一人暮らしの性だろう。


「じゃあ……金曜、高校から帰ってきたらでどうだ?夜でもいいが、暗いときついしな」


「了解」「いいよ」「いいですわ」


 昇が提案し、俺たち三人が賛成する。


 こうして、あっという間に週末の予定が決まった。


「ところで、今日の授業後の皆さんの予定は何ですの?私は買い物に行こうと思っていましてよ」


 まだ食べ終わらない俺を気遣ってか、静が話題を振る。すいません。


「俺は部活だな。陸上部員の顔合わせと、やりたい種目のヒアリング!」


「僕もVR開発部の活動がある。顔合わせとか、機材の使い方の講習だって」


「俺は読書部のミーティングだな」


 俺もそう返して味噌汁を流し込む。


 やっぱり味噌汁はわかめに豆腐だな!無事、完食致しました。


「皆さん、午後もファイトですわ」


 最終的に静が総括して、俺たちは席を立って食器を片づけ始めた。




  ※※※




 五時間目は、チェリーギアに搭載されている学習ソフトである『VRラーニング』を利用する授業、『VR教養1』だった。VRゲーム部の集会で集まったレクリエーション室1でやったが、他の授業と変わらず、こちらも画面の操作方法を説明しているだけで時間いっぱいを使った。


 何はともあれ、今日の授業はこれで終わりだ。


 最後にアロハ短パンが教壇に立ち、帰りのホームルームをして下校の時刻になった。俺はしっかりと、タブレットとチェリーギアの保証書を提出しておいた。


 授業後は、いよいよミーティングだ。読書部の全員が図書室に集まる。同僚や先輩はどんな人だろうか。吾妻部長と本多副部長は面白い人たちだったが。


 帰りの支度をして、四人で一階に降りる。


 図書室は三人の行く方向とは別なので、俺は玄関の前で皆に別れの挨拶をする。


「お疲れ。昼にも言ったが、今日読書部の集まりがある。帰ったら[AnotherWorld]にログインするから、もしかしたら会えるかもしれないけど」


「おう、お疲れ!やっと辛気臭い授業も終わって、ひとっ走りできるぜ!」


「お疲れさま。僕もPC室に行かないといけないから、ここでお別れだ。白峰校長にしごかれてくるよ」


「お疲れ様ですわ」


 各々返事をして別れ、一人になった俺は廊下を少し歩き、図書室の扉の前に到着する。


 そして、俺は新しい部員の人たちと仲良くなれますようにと心の中で祈りながら、一息に引き戸を開け放つのであった。

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