ついてない日

菊地 順

 その日は、朝から雨が降っていた。

 玄関の傘立てを見ると、何故か傘が一本もなかった。

「あれ?」

 家を出るタイミングで雨が降りそうだったり降っていたら別だけど、傘は現地調達派。出先で雨に降られたら、その時に購入することにしている。

 購入することも多い代わりに、忘れてくることも多かった。

 とはいうものの、玄関の隅に置いている傘立てには、コンビニやディスカウントストアなどで購入したビニル傘が最低でも二、三本は立っているはず。

 おかしいなぁ、と首を傾げ。

「あー……」

 心当たりに思わず声を上げた。


 先週の土曜、どういう流れで決まったのかは忘れたが、会社の中のいい同期でたこ焼きパーティなるものを開こうと盛り上がった。

 もともと料理は趣味だ。仕事が繁忙期じゃなければ自炊もする。

 学生の頃は、少し古いけれどキッチンが広いアパートに住んでいた。一人暮らしには似つかわしくない大きな冷蔵庫があるのはそのせいでもある。

 今の会社に通うには、そのアパートからは少し不便だったことのあり、今のアパートに引っ越した。

 引っ越したアパートのコンロが一口。

 料理をするには不便なこともあり、色々調べた末に、ホットプレートを購入した。

 焼き肉などに用いる朝目のプレートの他に、煮物や簡単な鍋が出来る深めのプレートと、なぜかたこ焼き用のプレートがセットになっていた。

 一人でもいろいろな具材を入れたたこ焼きを作ったり、レシピを参考にアヒージョや一口カステラを焼いてみたりもしている。

「タコ焼き用のプレートなら、俺の家にある」

 そういえばと、着いそう漏らすと。

「一人暮らしだったよな、じゃあお前のアパートでやろうぜ」

 いとも簡単に、決まってしまった。 


 飲み物や材料を持ち寄って、たこ焼きパーティを開いたのは先日の土曜の夜。

 昼過ぎに集まったころは、青空が広がる良い天気だったが、最終電車に間に合うように解散した頃には、あいにく雨が降り出していた。

 玄関の傘立てには、ちょうど人数分の傘が立っていた。

「傘、借りていっていいぞ」

 俺の言葉に、口々に助かったと傘を手に帰って行った。


「仕方ない、コンビニで買うか」

 アパートの1階部分はコンビニエンスストアが入っている。

 俺は躊躇なく店頭で傘を手に取ると、レジに向かった。


 会社に向かい、あれ?と首を傾げる。

 あの時、人数分の傘が立っていたのは間違いない。

 その人数には、自分もきっちりカウントされていた。

『流石に、家主の分は残さなきゃだよな』

 誰かがそう言って、傘の本数とその時集まった人数を数えていたし。

 全員が傘を手にしたとき、1本残っていた気もする。

 

 最後の1本を持って行ったのは誰だったんだろう。


 

 



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る