第1話 「光」という少年
中学2年生の光という少年は、学校内で優等生という言葉が最も似合う人物だった。
200人を超える学年において定期テストでは常に5位以内。
授業も真面目に受け、宿題を忘れることもほぼない。
2年の秋頃からは生徒会長の職にも就き、先生や同級生からの信頼も厚い。困っている人がいたら、内心しょうがないなあ、と思いながら手を貸す。
そんな生徒だった。
さらに、彼は他人を傷つけることを強く嫌っていた。
それは、医療関係者の親の元で育ち、小学生の頃にいじめられっ子だった経験があったからだろうか。
周りが深く考えることもなく、なんとなく都合が悪い時につかっている「死ね」「殺す」といった言葉を嫌い、暴力を嫌う、そんな少年だった。
◇
「起立、気をつけ、礼」
「お願いします」
いつもと代わり映えのない形式だけの挨拶が終わり、席に着く。
窓の外は、雪が積もっていた。
室内は寒く、理科室特有の背もたれのない木の椅子は、冬服のズボンでも冷たい。
こういうときはつくづく男で良かったと思う。
女子のセーラー服は、冬服とはいえ堪えるだろう。
学ランは偉大だ。
「今日はリトマス紙の色の変化について実験します」
白衣を着た男性教諭が授業内容を説明する。
正直、僕はあまり理科の実験というものが好きではない。
ワクワクするようなものならば良いが、わざわざ教室を移動して、配られたプリントに教科書に書いてあるのと同じ結果を書いて、さらには感想まで書かないといけない。そんな手間がある実験は好きではなかった。
今日の実験は、リトマス紙の色の変化についての実験。
リトマス紙と溶液を反応させ、そのときの色の変化を観察して、その溶液が酸性かアルカリ性かを調べるというものだった。
「リトマス紙は、液体が酸性なのか、アルカリ性なのかを調べるものです。リトマス紙には赤色と青色の二種類あって……」
そんな事を聞きながら、机の上、開かれたままにしておいた教科書を横目で見る。
今日の実験に該当するそのページには、酸性の水溶液が青から赤に色が変化し、アルカリ性の水溶液が赤から青の変化であることが写真つきで載せられていた。
(オーケー、アルカリが赤から青ね。アカからアオに変わるから、アルカ→オ性で覚えれば良いか。多分、色の変化はテストでも迷わないな)
「今日使うのは、薄めた塩酸と、水酸化ナトリウム水溶液、あとは食塩水と蒸留水。蒸留水っていうのは、難しい言葉で書かれてるけど、要は真水ね。水道水とは違うから注意するように」
(ジョウリュウスイは真水。なるほど?)
「あと、今日使う薬品の中には、危険なやつもある。塩酸と、水酸化ナトリウム水溶液とかだな。薄めてはあるけど気を付けて取り扱うように」
(そういえば、さっきチラ見したとき、教科書にも書いてあったか)
「万が一、目とかに入ったら失明したりする可能性もあるからな。まあ、もう中3にもなるし大丈夫だとは思ってますが。よし、じゃあ準備の方を始めましょう。薬品とかは前から取っていってください。押さないで順番にね。はい、準備開始!」
木椅子を引く音が、そこらで鈍く鳴った。
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