第五話「VSゴーレム」
静かな森に轟音が響く。石で作られた巨体が腕を振り下ろすたびに、地面が揺れるようだ。
やばいやばいやばい!
いきなり訳が分からない状況になったが、とにかくやばい。
なんだあの威力!当たったら余裕で死ぬ!
ゴーレムとか言ってたが、なんで俺はこんなんと戦っているんだ?
ええい!考えても分からん!
とにかくこいつをどうにかしてからだ。それから考えよう。うん。
ゴーレムがもう一度腕を振り下ろす。
こいつは動きがそこまで早くないうえにワンパターンなので、次の動作が予測しやすい。
俺はそれを横に飛んで躱し、カウンターで魔法を放つ。
「我起こすは木々をもなぎ倒す暴風!烈風刃!」
荒猪を真っ二つにした風の刃がゴーレムに飛んでいく。
烈風刃はゴーレムの右腕に当たり、その腕をを切り落とした。
よし……!俺の魔術が通じる!こいつ見かけだけで大したことないな?
俺が心の中でガッツポーズを上げ、とどめにもう一発お見舞いしてやろうとしたその瞬間。
ゴーレムの胸に埋め込まれていた赤い玉が光ったかと思うと、切り落としたはずの右腕が、まるで糸でつながっているかのようにくっついたのだ。
おいおいおいマジか!こいつ自動で復元するのか!そんなのきりがないぞ……!
俺が驚いている間にもゴーレムは攻撃を続けてくる。
相変わらず動きはのろくて、十分避けれるのだが、このまま避けているだけとはいかない。
俺の体力も無限ではないのだ。
しかし、反撃しようにも自動的に治ってしまうのなら意味がない。
おまけに俺の撃てる魔術の回数は三位階の魔術をあと2回といったところだ。
2位階以下はおそらく効かないだろう。
つまり早めに決着をつけなければならないのだ。しかし、俺の攻撃は効かない。
どうしたものかとゴーレムの攻撃を避けていると、思わぬところから助け船が来た。
「ゴーレムの弱点は胸のコアだ。死にたくなければそこを狙え!」
なんとゴーレムを作り出した本人が助言をしてきたのだ。
こいつは敵じゃないのか?なんで俺に助言を?ええい!訳が分からん!
ただ、他に何か思いつくわけでもないので従うことにする。
振り下ろされる腕を避けながら、ゴーレムの胸に狙いを定め、もういちど烈風刃を放つ。
「我起こすは木々をもなぎ倒す暴風!烈風刃!」
風の刃はゴーレムの胸目掛け、真っ直ぐに飛んで行き、コアを真っ二つに……するはずだったのだが、寸前にゴーレムが右腕でガードしたためコアには届かず、また右腕を切り落としただけになってしまった。
クソッ……!魔術はあと一発しか打てないぞ。
前の攻撃を無防備に受けたため、ゴーレムがガードすることを想定できなかった。
しかし、ガードするということはコアが弱点で間違いなさそうだ。
あの女のアドバイスは本当だったのだ。
あとはどうやって攻撃を当てるかだが……
正直難しい。
烈風刃は俺の魔術の中でも着弾までの速度が一番早いものだ。
あれがガードされたなら他の魔術もガードされてしまうだろう。
となれば残された手は一つ。
簡単な話だ、遠くから魔術を使うと防がれてしまうのなら、ガードできない距離まで近づけばいい。
正直あの当たれば一撃必殺。みたいな攻撃をしてくる奴に近づきたくはないが、そうしないと勝てそうにもないから仕方がない。
覚悟を決めろ俺!
俺が一歩大きく踏み込むと、ゴーレムが左腕を振り下ろす。
俺はそれをサイドステップで躱すと、さらに一歩踏み出し、ゴーレムの懐に潜り込む。
そして無防備になったコア目掛けて魔術を放つ。
「我起こすは巨岩をも砕く一撃!
俺の右手に先端が鋭い岩が形成され、それがドリルのように回転しながら射出される。
この魔法は一点への攻撃力がとても高いので大抵のものは打ち砕く。
まさに今の状況にピッタリだ。
やった……!!
俺は勝ちを確信した。
しかし、ゴーレムも一筋縄ではやられるわけにはいかないらしい。
残った右腕をコアの前に出し、ガードをしてきた。
俺の石砕弾がゴーレムの右腕を削る。
いけ!そのまま貫け!頼む!
石砕弾はゴーレムの右腕に穴をあけ、コアに届いた。
だが、コアを破壊するには至らず、ひびを入れるだけになってしまった。
「クソッ!!」
石砕弾は並みの硬度ならそのまま貫いていくはずなのだが、それだけコアが硬かったのだろう。
俺は3つ目の魔術で仕留めることに失敗した。
つまり、負けだ。
俺は魔力切れギリギリで正直立っているのもつらい。
ここから打てる手はなく、ただゴーレムの右腕が振り上げられるのを見ているしかなかった。
死
ゴーレムの拳が頂点に達したとき、その言葉が浮かんできた。
全身に鳥肌が立ち、頭の中が恐怖でいっぱいになる。
何か口に出そうとして、とっさに出てきた言葉は命乞いでも、前世のように後悔の言葉でもなかった。
「わ、我起こすは巨岩をも砕くい、一撃!石砕弾!」
それは詠唱になっているか怪しいくらい震えた声だったが、たしかに魔術は形成され、石砕弾は今度こそゴーレムのコアを貫いた。
コアを破壊されたゴーレムは大きな音を立てながら崩れ、がれきの山となった。
同時に俺も地面へと倒れる。
「やっちまった……エレナにあれだけ……注意されたのに……な……」
俺の意識はそこで途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます