第14話 刑事は若き経理者の裏の顔を探る⑵


「オーナーというのは、具体的にどういったことを任されてるんです?」


「まあ僕の場合は経営のプランニングを任されているというか……僕が出資しているわけでもないので、オーナーという呼ばれ方には若干、違和感もあるんです」


「オーナーにならないかという話はどちらから?」


「とあるサプリメーカーの方からです。今度飲食事業に進出するので、開店に際し若い感性を必要としているって」


「その人とはどこで知り合ったんです?」


「ええと……その質問にお答えする前に、僕に何を聞きたいのかを率直に教えてもらえませんか」


 警戒を強めた圭に、俺が「どう説明したものか」と思案を始めたその時だった。


「率直に言いますと『ぽぴいしーど』には十代前半の女の子を働かせているという噂があるんです。ですから私たちとしてはオーナーであるあなたの話を伺うことで真偽を確かめたいという思いがあるのです」


 急に身を乗り出し、俺に先駆けて畳みかけたのは後ろで控えていた沙衣だった。


「十代前半の……そうなんですか?」


「ええ。『ぽぴいしーど』がメイドカフェだということはご存じですよね?」


「もちろんです」


「私たちは今、『ぽぴいしーど』のマネージャーについて調べています。『ぽぴいしーど』では店員のストレス解消という名目で独自のサプリを使っています。そのサプリに違法な成分が含まれているという噂があるんです」


「違法な成分?」


「はい。そちらの方は少年課と薬物の担当班が調べています。私たちが知りたいのは、このマネージャーさんがサプリの成分についてどの程度、知っているのかという点なんです」


「少なくとも僕は、よく知りません」


「そのマネージャーさんは以前『プルーティポーション』というお店に勤めていました。そこで働いていた高校生が、原因不明の死を遂げているんです」


「……『プルーティポーション』は知っています。研修という名目でプランニングに参加していましたから」


 圭がそこまで答えたところで、俺は沙衣に代わって問いを放った。


「久具募早苗と言う名に心当たりは?」


「久具募……さん?」


 俺はポケットに忍ばせている『死霊ケース』の蓋をそっとずらした。早苗は圭とはもしかしたら面識がないかもしれないが、なにがしかの反応があってもおかしくない。


「――ああ、思い出しました。亡くなった方ですよね?」


 俺が早苗の名を口にすると、それまで無邪気と言ってもいいほど柔らかな笑みをたたえていた圭が、瞬時に眉を曇らせた。


「そうです。一年前の話です。その件について当時のマネージャーに聞こうと『ぽぴいしーど』に行ったところ、どうも我々を避けているような気配があったんです。そこであなたに話を聞くしかないと、こう判断したわけです」


「僕がどんなことを知っていると言うんです?」


 圭は俺の探りに対し、初めて警戒するような素振りを見せた。これが演技なら大したものだ。


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