第70話「お迎え」



「リックーーーーー!!!!!」


声は徐々に僕のいる小屋に近づいてくる。


この声には聞き覚えがある。


僕は小屋の外に出た。


外に出ると僕のよく知っている人がいた。


「グランツさん!

 それにリヒトとシャインも!」


声の主はグランツさんとリヒトとシャインだった。


三人の乗った馬車がこちらに近づいてくる。


「どうしてここに……」


「リック、無事で良かった!」

「リックさぁぁぁぁん!」

「リックさん、いなくならないで!!」


グランツさんとリヒトとシャインが馬車から降りてきて、僕に抱きついてきた。


「えっと……みんなどうやって僕の居場所を……?」


「リックが家から飛び出したあと、なかなか帰って来ないからみんなで外を探したんだ」

「それで不審な車輪の跡を見つけたから、跡を追ってきたの」

「ボクたちとっても心配したんだよ」


みんな僕を心配して探しに来てくれたんだ。


このとき僕は、罪を犯して追放された僕のことを、心配してくれる人がいることが単純に嬉しかった。


もっとも、彼らは僕が犯した罪について知らないのだが……。


「リックはハイル村の奴らに誘拐されたんだろう?」


グランツさんが僕の手に出来た、縄で縛られた痕に気づいた。


グランツさんに問われ、僕はどう答えようか迷う。


ゼーゲン村とハイル村が、今後も良好な関係を保つためには本当の事を言わないほうがいい気がする。


「えっと……ハイル村の人が僕に文字を教えてほしいと頼みに来て、詳しい話を聞くために僕は自ら彼らの馬車に乗ったんです。

 みんなに黙って村を出てすみません。

 心配をかけないように、すぐに戻るつもりだったんです」


ハイル村の村長が小屋からこちらを見ている。


話を合わせてという意味を込めて、僕はハイル村の村長さんに目配せした。


ハイル村の村長さんは僕の目配せの意味に気づき、コクリと頷いた。


「リック……嘘をついてないか?」


グランツさんが僕の目を真っ直ぐに見つめる。


グランツさんに曇りなき眼で問われ、僕の心臓は一瞬ドキリとした。


「うっ、嘘なんかついてないですよ」


グランツさんが僕の手首にある縄で縛られたあとをチラリと見て、

「まぁ、お前さんがそういうことにしたいならこれ以上は何も聞かないが……」

ため息を漏らした。


グランツさんには、僕がハイル村の人たちに誘拐されたことがバレている気がする。


「ハイル村の村長さん。

 リックはゼーゲン村の一員で、俺たちの大切な仲間なんです。

 これからは彼を連れ出すなら、ゼーゲン村の村長の許可を取ってからにしてもらいますよ」


グランツさんがハイル村の村長さんを見据え、強い口調で言った。


「リック様、グランツ殿、済まなかった。

 今後はそうさせていただく」


ハイル村の村長さんが、僕とグランツさんに向かって頭を下げた。





この一件はこれにて解決。


この一ヶ月後、ゼーゲン村に小さな学校を作り、近隣の村の子供たちを集めて文字や薬草の知識を教えることになった。


各村の人たちが、子供たちが文字を教わっているお礼として、野菜やモンスターや野獣の肉を届けてくれた。


ゼーゲン村はちょっとだけ豊かになり、グランツさんの家の食卓でもお肉が出る回数が増えた。


育ち盛りのリヒトとシャインがいるので、お肉を出せる回数が増えるのは有り難い。



☆☆☆☆☆




少しでも面白いと思ったら、★の部分でクリック評価してもらえると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る