第71話「エンデ町のキャラバン」
それからは色々なことがあった。
ゼーゲン村に学校が出来た一か月後、エンデの町にキャラバンが来ることになった。
僕は薬草学の本や子供向けの初歩的な文字の書き方の本を作り、グランツさんとともにエンデ村に向かうことになった。
グランツさんがエンデ村に出かける前日に、誤って口ひげとあごひげを剃り落としてしまった。
グランツさんはひげがないと十歳は若く見えて、かなりの男前だった。
グランツさんは「ひげがないと威厳がなくなって町の連中に舐められるんだよな」とボヤいていたが、僕はひげがない方がいいと思う。
☆
キャラバンの商人は、僕の書いた薬草学の本と子供用の手習いの本を高く買い取ってくれた。
僕は本を売ったお金でグランツさんに最新式のナイフと弓と矢を、村長さんに目薬を、子供たちに黒板とチョークを買った。
余ったお金で紙とインクと絵の具を買った。
絵の具があれば植物図鑑の挿絵をカラーにできる。
カラーのイラストの方がわかりやすいし、次にキャラバンが来たとき、今回よりも高く買い取ってもらえるはずだ。
キャラバンで子供用の初歩の魔術書がかなりの高値で売っていたので、今度は魔術書を作ってみようと思う。
僕は子供用の初歩的な魔術を全て暗記している。簡単に本にできるはずだ。
そんなことを考えながら歩いていたらグランツさんとはぐれ、誘拐犯にさらわれてしまった。
誘拐犯はキャラバン目当てに集まった「若い女性」を誘拐して、よその町で売っているようだった。
若い女性と間違えられてさらわれたなんて屈辱だ。
誘拐犯はキャラバンで魔術書を売っている男女の二人組みだった。
僕は相手に魔術の知識があることを逆手に取り、誘拐犯が席を離れた隙きに、床に爆発の効果がある魔法陣を書いた。
ほんの少し魔法陣の細部を変えているし、僕は魔法を使えないから、魔法陣は発動しない。
だけど誘拐犯を脅すには十分だった。
誘拐犯は僕たちをアジトに残して逃げ出した。
その後グランツさんが助けに来てくれて、拐われた女性達は無事に家に帰ることができた。
誘拐にキャラバンの団長は無関係だったようだ。
キャラバンの団長は誘拐犯の二人を捕まえ、彼らに重い罰を与えた(ロープを木に縛り、深い崖から逆さ吊りするとかなんとか)。
キャラバンにはキャラバンの厳しい掟があるようだ。
キャラバンの団長さんは、迷惑をかけたお詫びだと言って、僕たちに荒れ地でも育ちやすい植物の種とその育て方を記した本をくれた。
とても貴重な物のようなので有り難くいただいた。
☆
それからエンデの町で、兄上と婚約者を解消したデルミーラ様が、兄上の悪口を言いふらし悲劇のヒロインを気取っていることを人々の噂から知った。
デルミーラ様は、兄が暴力を振るっていたとか、兄がデルミーラ様からの贈り物を壊していたと、でたらめを言いふらしているらしい。
僕はそのことを知りショックを受けた。
兄上は暴力を振るうような人じゃないし、デルミーラ様からの贈り物も大切に保存していた。
兄上の人柄を知る人なら、兄上がそんなことをする人じゃないってわかるはずだ。
もしかして人々がデルミーラ様の言葉を信じているのは僕のせいなのか?
僕がエミリーに酷いことを言ったから、僕の身内である兄上もそういう人だと思われていりのか?
僕は愕然とした。
デルミーラ様の本性がわかったことより、己のしでかしたことの罪の重さに愕然とした。
こんな田舎の男爵領にまで彼女の噂が届くんだから、王都ではかなりの噂になっているだろう。
僕のせいで兄上に迷惑をかけてしまった……申し訳なさで胸が潰れてしまいそうだった。
デルミーラ様が嘘つきだったということは、彼女から聞いたエミリーの悪い話は、全部嘘だったということになる。
デルミーラ様の言葉を信じ、僕はエミリーに沢山酷いことをしてしまった。
今すぐ二人のところに行って土下座して謝罪しい。
でも僕は臆病で、恐怖に負けて何も出来なかった。
僕はゼーゲン村とその近隣の村を栄えさせるすることが、自らが犯した罪の償いになると言い訳し、ゼーゲン村に戻った。
僕は卑怯で臆病で最低な人間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます