第62話「罪悪感と後悔」
僕を捕まえたのは、ブルーノ公爵家とメルツ辺境伯家とクロス子爵家の手のものだった。
彼らは僕とアルド殿下とべナットが、ミアの魅了魔法にかかったという話を胡散臭く思っていて、ひっそりと僕たちに見張りを付け、僕たちの言動を探っていたのだ。
クロス子爵に捉えられた僕は、取り調べと言う名の拷問を受けた。
このとき僕は初めて真実を聞かされた。
ミアがブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢とエミリーに虐められていたという話は、僕たちの同情を誘うための嘘だったこと。
ミアが言っていた「キスが庶民の間の友情の表現だ」という話も嘘だったということ。
ミアは学園に玉の輿狙いでやってきたこと。
ミアの色仕掛けに引っかかったのが、僕とアルド殿下とべナットと三人だったこと。
アルド殿下とべナットは、とっくにミアと肉体関係を持っていたこと。
などなど……知りたくなかったことを事細かに説明された。。
アルド殿下とべナットは、僕に「ミアとはキスまでの関係だ」って言ってたのに……。
ミアを処女だと信じていたのは僕だけだったんだな……。
僕はミアだけでなく、友人だと思っていた二人にも裏切られていたんだな……。
それでも僕は「魅了魔法をかけられておかしくなっていた振りをするように」と言い出したのが側妃様だと話すつもりはなかった。
友達とその家族を売るみたいで嫌だったから。
でも拷問がつらすぎて、結局話してしまった。
洗いざらい暴露した僕は、拷問から開放され牢屋に入れられた。
牢屋で抜け殻のように座り込んでいる僕に、看守が外の様子を教えてくれた。
☆
看守の話によると、アルド殿下は進級パーティでブルーノ公爵令嬢に冤罪をかけ罵倒し、王命による婚約を勝手に破棄しようとし、進級パーティを台無しにしたことなどの罪に問われ、王位継承権を剥奪され、王族から除籍され北の塔に幽閉されたらしい。
北の塔は罪を犯した元王族が死ぬまで幽閉される場所だ。
塔に幽閉されたアルド殿下はあと何年生きられるのだろう?
側妃様はアルド様の罪を軽くするために、僕らが魅了魔法にかかったことにし、国王を騙した罪と、アルド様に同情が集まるように民衆を誘導した罪に問われ、側妃の身分を剥奪され北の塔に幽閉されたらしい。
側妃様のご実家のオットー伯爵家は、側妃様の計画に加担したとして、二階級降格され男爵家となったようだ。
べナットは実家のリンデマン伯爵家から除籍され、二度と剣を持てないように右手の骨を折られ、郊外の森に捨てられたみたいだ。
僕は実家のザロモン侯爵家から除籍されたらしい。
兄のフォンジーが義姉上に「ザロモン侯爵家では子供にどういう教育をしているの? 最低ね」と言われ婚約を破棄されたようだ。
僕がエミリーに「愛人を囲うから金を出せ。愛人と暮らすための別邸を建てろ。僕の遺伝子を受け継いだ子供が授かるだけ幸運だろ」と言ったせいで、兄上まで白い目で見られている。
「お前の悪評は国中に広まった。今後ザロモン侯爵家に嫁入りしたい貴族は現れないだろう」……と、看守が嘲笑を浮かべながら言った。
側妃様の実家のオットー男爵家と、べナットの実家のリンデマン伯爵家と、僕の実家のザロモン侯爵家は、貴族社会からのけものにされ、苦しい立場に立たされているらしい。
僕がしでかしたことの責任を取り、父は魔術師団長の職を辞したようだ。
リンデマン伯爵もべナットのしたことの責任を取り、騎士団長の職を辞したみたいだ。
二人が職を辞した理由は事件の真相が明かされたあと、団長の言うことを誰も聞かなくなってしまったことによる精神的なショックが大きいらしい。
ミアは婚約者のいる第二王子と貴族令息に近づき婚約破棄の原因を作った罪に問われ、娼館に送られることに決まったらしい。
男爵家はミアの仕出かした責任を取らされ取り潰され、家屋敷を売ったお金は迷惑をかけた家の慰謝料に当てられることになった。
つまりミアと男爵家だけは、側妃様が魅了魔法がどうのと言い出す前と変わらない罰を受けたということだ。
「お前の処分は体に魔法封じの印を刻み、死の荒野に置き去りにすることに決まったそうだ」
看守はそう言って去っていった。
体に魔法封じの印を刻まれたら、二度と魔法が使えない。
ひ弱な魔術師が魔法を封じられたら、死ねと言われたも同然だ。
僕のことはいい、己の愚かさが招いたことだから。
気がかりなのは家族のことだ。
僕が愚かだったせいで家族に多大な迷惑をかけてしまった。
年老いた父や善人を絵に描いたような兄が、酷い目に合わされていることを想像しただけで……胸が張り裂けそうだ。
僕が愚かな事をしなければ、家族は辛い思いをせずに済んだ。
僕が拷問に耐えていれば、アルド殿下やべナットやその家族を巻き添えにすることはなかった。
だが僕は拷問の苦しみから逃れるために、友達を売ってしまった。
僕は後悔と罪悪感に押しつぶされそうだった……。
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拷問を受けた傷が治ってきたころ、僕は体に魔法封じの印を刻まれた。
これで僕は二度と魔法が使えない体になった。
そして粗末な荷車に乗せられ王都から連れ出され、死の荒野に置き去りにされた。
死の荒野というだけあって、見渡す限り何もない。
あるのはゴツゴツとした岩と、ところどころに生えている雑草のみ。
樹木は生えてないし、動物の姿は見えない。
僕が今身に纏っているものは粗末な布の服のみ。
靴もない、魔道具もない、水や食べ物もない、頼りの魔法は使えない……僕はここで死を待つしかない。
僕はその場に仰向けに、死を待った。
色んな人に迷惑をかけた僕に生きている資格などない。
空が青い……最後に綺麗な空が見えて……良かった。
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※ここで終わりではありません!まだ続きます!
おまたせしました!次回からリックの更生の旅が始まります。
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