第38話「傷口にしみる」微ざまぁ



わたくしは門番にお姫様抱っこされたまま

、わたくしの部屋まで運ばれ長椅子に降ろされた。


家に帰ってこれたのは嬉しいけど、わたくしの部屋が獣の糞尿臭くなるのは嫌だわ。


この長椅子も気に入っていたけど処分する必要があるわね。


ハンスが主治医を呼んでくるようメイドに指示を出している。


「傷の手当より食事が先よ!

 ハンス食事の用意をして!」


もう何日もろくに食べていない!


わたくしの空腹は限界に達していた。


だがハンスはわたくしの言葉を無視した。


使えないわね!


ハンス、あんたもあとで首にしてやるわ!


すぐに主治医がやってきた。


主治医はわたくしの格好を見て驚き、「まずは奥様をお風呂場に連れていき、シャワーで泥を落とすのだ。傷口を石鹸で洗うのも忘れないように」とメイドに命じた。


「お風呂に入れるのは嬉しいけど、それよりも先に食事がしたいわ! ありあわせの物でもいいから何か作って!」とメイドに命じたが無視された。


どいつもこいつも使えないわね! 全員首にするわよ! 


わたくしは二人のメイドに付き添われ、お風呂に連れて行かれた。


傷口を石鹸で洗われたときは、傷口に泡が染みて泣きそうになった。


お風呂から上がるとバスローブが用意されていた。


部屋に戻るとわたくしが座っていた長椅子はなくなり、別の椅子が置かれていた。


前の椅子は臭うので処分されたのだろう。


お風呂から上がったわたくしは、長椅子にうつ伏せで横になるように言われた。


主治医に傷口に消毒用のアルコールをかけられ、また泣きそうになった。実際少し涙が出た。


消毒が終わると、主治医はわたくしの傷口に薬を塗り、包帯を巻いた。傷口に薬を塗られたとき、涙がポロポロ溢れた。


なんで泡も消毒用のアルコールも塗り薬もこんなにも傷口にしみるの!


あの門番にも同じ苦しみを与えてやりたい!


あの門番へのムチ打ちは百回は必要ね!


傷の手当てが終わると、主治医は帰って行った。


メイドに着替えを持ってくるように頼んだが、メイドが持ってきたのは白無地のワンピースだった。


やはり当家のメイドは使えないわ。ワンピースでも赤や黄色やオレンジなど華やかな色の物が沢山あるのに、なんでこんな地味な服を持って来たのかしら?


汚れていないだけましね。疲れているし今日はこの服で我慢するわ。


わたくしはバスローブから、白い無地のワンピースに着替えた。

 

ベルを鳴らしハンスを呼ぶ。


「傷の手当てが終わったのなら、食事よ!

 キッチンの食材を全部使って、何でもいいから作ってきなさい!

 今は質よりも量がほしいわ!」


「承知いたしました」


ハンスはようやく、メイドに料理を作るように命じた。


鴨のコンフィ、舌平目のムニエル、ガレット、キッシュロレーヌ、オニオングラタンスープ、ムール貝の白ワイン蒸し、ラタトゥイユ、パテドカンパーニュ、ローストチキン、タルタルステーキ、ブイヤベース、クロックムッシュ、マカロン、ミルフィーユ、

カヌレ、クリームブリュレ、チョコレートタルト、チョコレートムース、洋ナシのアイスクリーム・チョコレートソースがけ…………料理名がわたくしの頭の中をぐるぐると回る。


今はお腹が好きすぎて食べることしか考えられない。


一時間後。


「お食事の用意ができました」


ハンスが呼びに来た。


一時間が一日に感じるほど長かった。


「お部屋の移動をお願いします」


「この部屋で食べるわ!

 料理を持ってきて!」


お腹が空きすぎて、移動をすることすら億劫だ。


「それはできません」


「わたくしに口答えをする気!

 ハンス、あなた首にされたいの!」


どいつもこいつも、わたくしの神経を逆撫でしますわ!


 




☆☆☆☆☆☆




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