第24話「あいそをつかされる」
「本当なら君を鉱山に送って死ぬまで強制労働させるか、娼館に送って死ぬまで働かせたいが、君の息子であるコービーはシーラッハ公爵家の唯一の跡取りだ。
母親である君にこれ以上マイナスのイメージがつくのは避けたい。
コービーへの教育的配慮だ。
君に地方にある公爵家の別荘を君に与えよう。
お前の実家であるアブト伯爵家に君の引き取りを依頼したら断られてしまったからね。
君は今後一切そこから出ず、残りの一生を過ごすんだ。
君を平民にして野に放ってこれ以上面倒事起こされたら困るから、大人しく地方で暮らしてくれ」
「私は地方にあるボロ小屋に監禁する気!」
「これでも君にはもったいないぐらいの措置だよ。
フォンジー殿やザロモン侯爵家が受けてきた屈辱を考えれば、生ぬるいぐらいだ」
「コービーは! 息子は何て言ってるの?! あの子はわたくしのことをとても慕っているわ!
やさしいあの子が母親がこんな仕打ちをされているのを黙って見ているはずがないわ!」
コービーはまだ幼い。それに父親に似て情にもろいところがある。
母親であるわたくしが泣いてすがりつけば、自費を与えてくれるに違いないわ!
「コービーには今回の君への処分を先に伝えてあるよ。
コービーはこう言っていたよ、
『あんな嘘つきが母親なんて恥ずかしい!
あんな女の血を引いていることがボクの人生最大の汚点です!
ボクはこれからあの女を母親とは思わない!』とね」
「嘘よ嘘よ嘘よ!
コービーがそんなこと言うはずがないわ!
あの子は私のことを母として慕っているもの!!
コービーに会わせて!」
直接会えば母親であるわたくしに同情してくれるはずだわ!
「君ならそう言うと思ったよ。
僕も鬼じゃない。
最後に息子に会うことを許してあげよう。
コービーの口から直接引導を渡されるがいい。
コービー、入ってきなさい」
夫がそう言うとコービーが執務室に入ってきた。
「ああ、コービー会いたかったわ!
お父様があなたに変なことを吹き込んだのかもしれないけど気にしないで……!
お父様が言ったことは全部嘘よ!
皆がわたくしに罪をなすり付け、お母様を貴族社会から除け者にしようとしているの!
コービー、可哀想なお母様を助けて!」
瞳に涙をたたえ、愛する我が子に近づく。
息子を抱きしめてボロボロと涙を流せば、コービーはわたくしを許してくれるはずよ。
わたくしの処分を軽くするように、コービーから嘆願させるわ。
コービーの頼みなら夫も聞き入れるはず。
しかしコービーを抱きしめようと伸ばした手は、息子に振り払われてしまった。
「あなたは相変わらず、泣き真似が得意で、息を吐くように嘘を吐き、己の保身しか頭にない、身勝手な人ですね。
反吐が出ます」
息子が温度のない声でそう言った。
「コ、コービー……?」
息子に蔑むような目で睨まれ、わたくしは心臓はギュッと音をたててきしんだ。
「先ほどお父様があなたに話したことがボクの本心です。
ボクはあなたと血が繋がっている事を恥だと思っています。
ボクは二度とあなたのことを母親とは思いません。
あなたもボクのことを息子だとは思わないでください。
ボクのことを本当に思う気持ちがあるなら、これ以上ボクとお父様に迷惑をかけないでください。
今すぐお父様と離婚して地方の別荘に行ってください。
そしてそこから一生出てこないでください」
息子の冷たい言葉が、私の胸にザクザクと突き刺さった。
「コービー!」
コービーに伸ばした手は再び振り払われた。
「二度とボクを名前で呼ばないでください。
迷惑です。
これからボクとあなたは他人になるのですから。
お父様、ボクは部屋に帰ります。
この人を早急に追い出してください。
この人を視界に入れるのも、同じ空気を吸うのも、全部不快なので」
コービーは氷のように冷たい表情でそう言い放ち、部屋を出て行った。
コービンが私に向ける視線はゴミや虫けらに向けるものと同じだった。
「これでわかっただろ?
コービーはお前の事を見限っている。
コービーは君の血を引いていることを心の底から嫌がっている。
息子の事を思うなら彼には二度と彼に会わないでくれ」
夫に冷たい声で言われ、わたくしはその場に立ち尽くすことしかできなかった。
頼みの綱のコービーにもあいそをつかされた。
実家にも頼れない。
夫には離婚を迫られている。
「さあ早くこの離婚届に署名するんだ」
夫が執務机から紙とペンを取り出し、わたくしの前に置いた。
「あなたのコービーもわたくしをとことん馬鹿にするのね……!
いいわ、そっちがその気ならわたくしにだって覚悟があるわ!
わたくしはあなたの思惑通り離婚して田舎の別荘になんて引っ込まないわ!
わたくしを新たに養ってくれる殿方を見つけるわ!
それからあなたと離婚して、この家から出て行ってあげる!
見てなさい!
あなたなんか足元にも及ばないほど、素敵な男を捕まえて見返してやるんだから!
その時になって、わたくしと別れたくないなんて言っても遅いのよ!」
夫の制止を振り切り、わたくしは執務室を飛び出した。
自室に戻り、トランクにありったけのアクセサリーを詰め込む。
ドレスはかさばるので数着しか入らなかったが、アクセサリーを売れば新しくドレスを作ることも可能だ。
持ち出すならかさ張るドレスよりも、値段が高く小さいアクセサリーの方が優先順位が高い。
机の引き出しを開け、公爵夫人宛に届いていたパーティやお茶会の招待状をトランクに詰めた。
公爵夫人の肩書きがあるうちに、上流貴族が主催するパーティに参加し、新たな伴侶を見つけるのよ!
結婚してから十四年、自分磨きを怠ったことは一日もない。
今でも十代の頃と変わらない、みずみずしい肌と、メリハリのあるナイスバディを保っているの。
わたくしがその気になったら、落ちない男なんて一人もいないわ。
このあとどん底に落ちることも知らず…………アクセサリーを詰めたトランクを持って公爵家をあとにした。
☆☆☆☆☆☆
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