第4話「開いた口が塞がらない」





「ミアの実家のナウマン男爵家が取り潰され、ミアは娼館に売られることになった。

僕はミアを身請みうけし、ミアの家族の面倒を見たいと思っている」


訪ねてきたリック様をガゼボにお通しすると、開口一番にそう言った。


えっと……リック様は進級パーティで私に冤罪をかけたことへの謝罪に来たのではないのでしょうか?


「それはつまりリック様はミア様と結婚するということですか?」


おかしいですね、リック様にかけられた魅了の魔法は解けたと聞いていたのですが、なぜミア様への情が残っているのでしょうか?


リック様にかけられた魔法だけ、まだ解けていないのでしょうか?


「違う、結婚はお前とする」


「はいっ?

それはいったいどういう意味でしょうか?」


ますますリック様のおっしゃっていることが分からない。


「侯爵令息とはいえ、僕は次男だから受け継ぐ財産が少ない。

とてもではないが僕一人ではミアを身請けし、ミアの家族を養っていくことはできない。

だからお前でいいから結婚してやる。

俺の容姿と魔力と優秀な頭脳を、グロス子爵家では喉から手が出るほど欲しがっていただろう?

地味で取り柄のないお前と結婚してやるから、ミアとその家族を養うことを許可しろと言っているんだ。

グロス子爵家の人間は、金で人を買うのは得意だろ?

六年前だって金の力で、優秀な僕をお前みたいな平凡でなんの取り柄もないつまらない女の婚約者にしたのだから」


リック様の言葉に愕然とした。


リック様が私との婚約をそんなふうに考えていたなんて……。


追い打ちをかけるようにリック様の言葉は続く。


「僕とミアとミアの家族が暮らすために、グロス子爵家の敷地内に別邸を建ててくれ。

僕に愛されるなんて期待するな。

僕が生涯愛するのはミアだけだ。

だが婿養子の務めは果たしてやる。

跡継ぎを残すために、嫌だがお前も抱いてやる。

上手く行けば、僕に似た金髪碧眼で容姿端麗で強い魔力を持った優秀な子が生まれるかもな。

お前の遺伝子が強く出て『ハズレ』だったときは言ってくれ、三人までなら子供を作ることに協力してやる」


グロス子爵家の敷地内に、ミアさんとそのご家族を住まわせる別邸を建ててくれ?


婿養子の務めだから子作りはしてやる?


私の遺伝子が強く出たらハズレ……?


リック様の言葉に、今まで残っていた家族としての情も消え失せた。


「手始めに五千万ゴールド出してくれ、その金でミアを身請けしたい」


「………に…しないで……」


「なんだって?

よく聞こえない?」


「馬鹿にしないで下さい!」


私は椅子から立ち上がり、リック様をきっと睨みつけた。


「今までの非礼を謝罪に来たのかと思えば、一言の謝罪もない。

その上愛人を囲いたいから金を出せですって!?

最低ですね!

あなたとの婚約を破棄します!

顔も見たくありません!

今すぐこの屋敷から出ていって下さい!」


私はリック様の目を見てきっぱりと言い切った。


「おい、いいのか僕との婚約を破棄して?

世間は魅了の魔法をかけられた僕たちに同情的だぞ?

お前はブルーノ公爵令嬢やメルツ辺境伯令嬢と違い、美人でもないし、スタイルも良くないし、頭も良くないし、語学やダンスや乗馬が得意な訳でもない。

そんなお前が僕との婚約を破棄したらどうなると思う?

世間からバッシングを受けて、誰からも縁談が来なくなるぞ?

確実に行き遅れ、社交界で馬鹿にされるぞ?

それでもいいのか?」


リック様の言い分も一理ある。


リック様との婚約を破棄したら、私のところには二度と縁談が来ないかもしれない。


でも、それでも……。


「あなたと結婚するくらいなら、一生独り身で過ごした方がましです!」


女子爵として一生独身で通す道もある。


跡継ぎは親戚から養子をもらえばいい。


「なんだと、僕が下手に出てやればつけ上がって!」


リック様が立ち上がり、私の頬を叩こうと手を振り上げた。


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