第3話「夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた」
学園を卒業後、リック様はグロス子爵家に婿入りすることになっていた。
なぜ侯爵家の次男が格下の子爵家に婿養子に入ることになったのか?
それは六年前、ザロモン侯爵家が事業に失敗した時、お金を貸したのがグロス子爵家だったからだ。
お父様は商売が上手なのでグロス子爵家は、お金だけは持っている。
リック様は金髪碧眼の美少年。魔力量が多く、頭が良くて、魔術の腕前も超一流。
お金が欲しいザロモン侯爵家と、優秀な婿が欲しいグロス子爵家。
双方の利害が一致した。
リック様の婿入りを条件に、お父様はザロモン侯爵家にお金を貸した。
リック様は無口で無愛想な方だが、婚約してからは月に一度お茶会を開き、それなりにうまくやってきたと思っている。
学園に入学するまでは、毎年誕生日や女神の生誕祭にプレゼントも贈られてきていた。
学園に入学してからは贈り物が届くこともなくなり、定期交流のお茶会も毎回すっぽかされていたが。
今日、グロス子爵家にリック様が訪ねてくる。
用件はおそらく、進級パーティでの断罪と婚約破棄を宣言したことへの謝罪だろう。
第二王子殿下とリンデマン伯爵令息は、謹慎が解けてすぐに、婚約者の元に謝罪に行った。
なのにリック様が私の元に来たいと言ったのは、リック様の謹慎が解けてから二週間後だった。
リック様はなぜすぐに、私のところに謝罪に来なかったのかしら?
もしかしたら何か理由があって、リック様だけ謹慎が長引いたのかもしれない。
それとも魅了魔法が解けた影響で、体調に何らかの影響が出ていて、休養が必要だったのかもしれない。
もしそうだとしたら、謝罪に来るのが遅くてもリック様を責められない。
私はリック様に謝罪されたら、謝罪を受け入れ婚約を継続しようと思っている。
最悪でも双方合意のもとでの、婚約解消で済まそうと思っている。
相手は侯爵家、こちらは子爵家。
さらに魅了の魔法をかけられたリック様に世間は同情的。
もし私がブルーノ公爵令嬢やメルツ辺境伯令嬢のように、婚約者の謝罪を突っぱねてリック様との婚約を破棄しようものなら、世間からなんて言われるか……考えただけで恐ろしい。
私はブルーノ公爵令嬢やメルツ辺境伯令嬢のように、優秀でもなければ、美人でもない。
リック様との縁談が壊れ傷物になったら、もう次の縁談は望めないだろう。
私だってお茶会をすっぽかされたり、誕生日や女神の生誕祭に贈り物をされなかったことには腹を立てている。
だけど仕方ないのだ、リック様に謝罪されたら受け入れるしかないのだ。
それがグロス子爵家のため、ひいては自分のため。
十歳で婚約したときに抱いた、リック様への甘い恋心はもうない。
彼がミア様と浮気したときに恋心は薄くなり、進級パーティで断罪されたときに恋心は完全に消えた。
私に残っているのは幼馴染としての情だけ。
情があればラブラブな夫婦にはなれなくても、領地をともに守っていく家族にはなれる。
リック様が訪ねてくるまではそう思っていた……。
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