第6話 逮捕
怪我が治って久しぶりに仕事に行くと、グェンさんはいなかった。顔なじみに聞くと、何日か前から来ていないらしい。体調でも崩したのかな、と思っているところに、警察がグェンさんについて事情聴取しにやって来た。後から聞いた話によると、どうやらグェンさんは逮捕されたらしい。ベトナム人による組織犯罪に関わったということだ。
あのグェンさんに限って犯罪などするはずがない、そう僕は思ったが、逮捕されたということは確かなようだ。
翌日の新聞にグェンさんたちが犯した事件について書かれていた。数人のベトナム人が養豚場に忍び込んで、子豚を盗んだという内容だった。盗んだ子豚は捌いてベトナム人コミュニティで分配したと書かれていた。
グェンさんがいなくなってからと、僕は倉庫でスズのことを考えることが増えた。グェンさんは職場では唯一本音で話せる相手だった。そのグェンさんがいなくなってから、仕事は一層辛いものとなった。倉庫での時間は永遠に終わらないよう思えた。スズのことを考えて気を紛らわせたかった。
スズはどうやら祖母に引き取られることになったらしい。
「ちゃんとしたおばあちゃんならいいけど。」
ミホは少し不安そうに言っていた。
「施設にいるより家庭で育ったほうが良いのは当たり前なんだけど、引き取られた先で虐待されるケースも結構あるのよ。」
そう言ったミホの顔は、完全に曇っていた。鹿児島に行く前の話だ。
もし虐待されるようなことがあったなら何とか助けてあげたい、まだ会ったこともないスズのことを考えながら、僕はそう思った。
それでも毎日毎日人々の人生相談は続く、終わることはない。僕がサボっていた間にも色々な人が色々な相談事を新聞に投稿していた。
30歳 女性
仕事は長続きせず、3回転職しました。寂しさを埋めるために、本当は好きではない人と付き合っています。気力も体力ないので休日は家で過ごすことがほとんどです。貯金も全くできません。
もっとちゃんと貯金して、本当に好きな人を探さないと、と思うと苦しくなります。周りの友人は結婚して出産したり、仕事などに励んだりしています。何だか私だけ成長せず、取り残されているように感じます。このまま時が進んでいくと思うと怖くて仕方なく、漠然とした不安に押しつぶされそうになります。私はどうしたら良いでしょうか。
これを読んだ僕には、彼女がどうしてこんな心境になったか、何を悩んでいるのか、全くわからなかった。少なくとも今の僕よりは数段恵まれているように思えた。
そう思うと、急に怒りの感情が吹き出してきた。それと同時に僕の中の攻撃性が彼女に対して牙を剥いた。
回答
あなたはおそらく小さい頃から真面目で、大人たちに言われるがままに生きてきのではないですか。そんな甘っちょろい生き方をしてきたのだから、いい年になって絶望するのも自業自得だと思います。誰とも対立せず、先生や親の言うことを聞き、学校の成績がそこそこならそこそこ幸せな人生が歩めると思い込んでいたのではないですか。そんな思考停止状態のまま大人になってしまったのですから、今苦しむのは当然です。
あなたに必要なことは、今の苦しみを受け入れ、自分で考え行動することです。暫くは苦しい状態が続くでしょうが、それを乗り越えればあなたの苦しみは消えることでしょう。
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