ゲームの中で異世界転生チートスキルで世界を救います!
うんこ
第1話 ゲーム内で死んじゃった!
「うぐおおおおおおおおお!」
魔王デウスは勇者クルスの一撃を喰らい、叫び声を上げた。
その叫びで地が揺れ、石造りの壁にひびが入る。
遂に魔王デウスのHPに0になった。
(やったか……)
都内の高校一年生、山田久留洲はゲーム画面に釘付けになった。
ゲームパッドを握る手が震える。
仲間達のステータスを確認する。
どのメンバもHP、MP共に限界だ。しかし、勝利は目前だった。
その時、画面の中で爆発が起こり、炎に包まれた魔族達が逃げ惑う。
「おっしゃー!勝ったぞー!!」
久留洲は歓喜の声を上げてガッツポーズをした。
そして、そのままベッドの上に倒れ込んだ。
疲れと達成感からくる心地良い眠気が彼を襲う。
久留洲はそのまま深い眠りについた。
目が覚めると見慣れた天井があった。
久留洲は自分の部屋にいた。
窓から差し込む朝日が眩しい。
どうやら目覚ましが鳴る前に起きてしまったようだ。
今日は特に予定がない。
だからといって二度寝する気にもなれなかった。
仕方なく布団から出て、洗面所へと向かう。
顔を洗いながら鏡を見ると自分の顔が見える。
髪はぼさぼさだし、目の下には隈が出来ている。
これではまるで徹夜明けみたいじゃないか。
だが、事実として昨夜は深夜までオンラインゲームをやっていたのだ。
久留洲はいわゆるネトゲ廃人だった。
特にこのゲーム『ロード・オブ・ザ・ナイト』というMMORPGにはまっている。
オンライン上で複数のプレイヤーが同時に参加するタイプのゲームだ。
この手のゲームにありがちなPK(プレイヤーキル)などもあるのだが、運営側が用意した強力なシステムにより、今では無法地帯になるようなことはなかった。
そのシステムがレベル制と呼ばれるものだ。
プレイヤーはまず最初に10レベルのキャラクターを作る。
そこからレベルが上がるごとに能力値が上昇していく。
ちなみにレベルの上限は99である。
久留洲はいつものように朝飯を食べて歯を磨いた後、自室に戻りパソコンの前に座った。
起動してすぐにパスワードを打ち込んでログインする。
すると見慣れた光景が広がる。
中世の西洋のような街並みだ。
久留洲はこの街にある小さな宿屋の一室に居た。
彼はここで冒険者をしている。
名前は「クルル」だ。
この名前は昔飼っていた犬の名前である。
ペットロス気味になっていた時にたまたまネットで見つけた名前入力サービスを利用したのだ。
それ以来ずっとこの名前を使っている。
久留洲は早速冒険を始めることにした。
メニュー画面を開いてクエスト一覧を開く。
そこには様々な種類のクエストが表示されていた。
その中から一つを選択する。
すると久留洲の周りに光の輪が出現する。
この瞬間から彼の姿はゲームの世界へと転送される。
視界が変わると同時に目の前にNPCの姿が現れる。
どうやらここは街の広場のようだった。
噴水の周りを囲むようにベンチが配置されており、何人かの人々が腰掛けている。
彼らは皆、一様に鎧やローブといったファンタジー風の装備に身を包んでいた。
久留洲はその中の一人に声をかける。
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
話しかけられた相手はこちらを見つめてくる。
だが、しばらくすると興味を失ったかのように視線を外す。
会話が成立したかどうかすら怪しい反応だった。
(まぁ、こんなもんか……)
久留洲は内心ため息をつく。
よくあることなので今更驚きはしない。今のやりとりだけでも分かる通り、久留洲はこの世界の人間とコミュニケーションをとることが出来ない。
正確には言葉による意思疎通が不可能なのだ。
この世界の人々はある特殊な技能を身に付けることによって初めて他種族と交流を持つことが出来るようになる。
その技能の名は魔法と言った。
人々は生まれつき魔法の素質を持っており、それを行使することで他の種族とも交流が可能になるらしい。
ただし、習得するまではいくら努力してもダメだと聞く。
ちなみに久留洲は今まで一度も使えたためしがなかった。
それでも諦めずにプレイしているうちに、いつの間にかゲームの中でトップクラスの実力を身につけていた。
今ではゲーム内で知らぬものはいないくらい有名になっている。
久留洲がこのゲームを始めた理由は単純明快だ。
ただ単に人と話せるようになりたかったからだ。
現実では友達どころか家族ともまともに喋れない。
そんな自分に嫌気が差していたある日、このゲームを見つけたのだ。
初めは半信半疑だったが、試してみると本当に他人との対話が可能になった。
最初は嬉しくて仕方なかった。
しかし、時間が経つにつれて次第に虚しさを感じ始めた。
どんなに頑張っても自分は人並み以下にしかなれない。
結局、何も変わっていない。
そう思うようになった。
だから久留洲はゲームの中でだけは自由に振る舞えるようになった。
自分の思い通りに物事を進められる。
それが楽しかった。
だから今もこうしてオンラインゲームを続けている。
やがて久留洲は街を出ることにした。
目的は魔族が治める国、通称『魔王城』である。
久留洲のレベルは99であり、大抵の敵なら一撃で倒すことが出来た。
しかし、今回ばかりは勝手が違った。
魔王城の手前には強力なモンスターが待ち構えていた。
それはかつて勇者が倒したはずの魔物達だった。
魔王が復活したことにより復活したようだ。
久留洲は必死になって戦った。
だが、多勢に無勢、徐々に追い詰められていった。
そして遂にはHPもMPも尽き果ててしまう。
久留洲はその場に倒れ込んだ。
このまま死ぬのかと思ったその時、誰かの声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
目を開けて声の主を確認する。
そこにいたのは天使のような少女だった。
背中には大きな白い翼があり、頭には光り輝く輪がある。
その姿を見た時、久留洲は自分の心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。
まるで一目惚れでもしたかのような感覚だ。
「あ、ああ……」
何とか返事をしようとするものの上手く言葉が出てこなかった。
「良かった。まだ生きているみたいですね」
彼女はホッとした表情を浮かべた。
「助けてくれてありがとう。君のおかげで命拾いをしたよ。ところで君は一体何者なんだい? どうして僕を助けてくれたんだ?」
久留洲は矢継ぎ早に質問をする。
「私は神に仕える者です。フィリアと申します」
「神様だって!?」
「はい。といってもあなた方の世界にいるような存在ではありません。私達は別の世界から来ました。そして今はこの世界を管理しているのです」
「別の世界ってどういう意味だい?」
「そのままの意味ですよ。あなた方の住む世界とは異なる法則が支配する異世界が存在しています。我々はそこの管理を任されているんです。もっとも最近は平和すぎて暇を持て余してるんですけどね。それで今回はちょっと遊びに来てみたんですよ。そうしたら大変なことになっているのを見つけまして……。急いで駆けつけたというわけです」
久留洲は彼女の話を半分以上理解できなかった。あまりにも突拍子もない話だったからである。
「じゃあ、何かな。僕は君の気まぐれで救われたというのかい?」
久留洲は皮肉を込めて言ったつもりだったのだが、彼女からは予想外の答えが返ってきた。
「えっ! 違いますよ。私が見捨てたら死んでいましたから。あなたの生命力の強さに驚いているくらいなんです。普通だったらあの攻撃を食らった時点で即死しているはずなのに……、さすがはゲームの世界の住人といったところでしょうか。それともあなた自身が特別なんでしょうか」
どうやら本気で言っているようであった。
久留洲は戸惑っていた。
(これは夢じゃないのか?)
そう思って頬を引っ張ってみる。
痛かった。
ということは現実の出来事ということになる。
信じられない。
目の前の少女が自分を助けたというのは紛れも無い事実だったようだ。
久留洲は改めて彼女を観察してみた。
背丈は久留洲と同じくらいか少し低い程度だろうか。
年齢は中学生ぐらいに見える。
髪の色は白銀で瞳は金色だった。
肌は雪のように白く、手足は華奢でとても戦う者の身体つきには見えない。
どちらかと言えば守るべき対象として見るべきものだろう。
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