星愁高校オカルトクラブ活動記録

都下月香

第1話 オカルトクラブ

   人はオカルトに惹かれている。

   いつか圧倒的な存在が、すべて剥ぎ取る瞬間を待っている。



「新聞部との企画が決まったの。生徒会うちからは担当にあなたを推薦したいのだけれど、どうかしら?」

 と、放課後の生徒会室に玲瓏な声が響いた。

 私は突然の話に理解が追いつかず声の主――『生徒会長』のネームプレートが置かれた事務机に向かう人物に目を遣る。

 新年度がはじまり一ヶ月を過ぎ、ゴールデンウィークも明けた今日、新入生のための様々の行事の後始末もやっと落ち着いたというのに、会長の前には多くの書類がうず高く積まれ、その手元からは承認印を押す音が小気味よく鳴っている。

 作業の合間、会長はちらりと私の視線に応え、言葉を続けた。

「あなたのやってくれている《生徒会たより》あるでしょう。あれ、よく書けてるって先生方に結構好評なの。でも逆に、生徒達にはほとんど注目されていないようで」

「それはまあ、行事報告と事務連絡ですから……」

 今はスマホひとつで他人の日常から電子書籍、最新ニュースまでいつでも読める。そんな環境で生徒達は、校内掲示板に貼られただけの《生徒会たより》にわざわざ注目しないし、好んで読まないのも当然だろう。

「ええ、そうです。注目されないのは当然。でも、それに甘んじてはいけないとも思うの」

 と、居住まいを正した会長から、一冊のファイルが手渡された。

 ファイルには、数枚の書類が挟まっていた。


【[新聞部×生徒会]オカルトクラブ】

(企画立案:星愁せいしゅう高校新聞部・一年C組 香坂詩音 企画協力:星愁高校生徒会)

 本企画は星愁生により結成された《オカルトクラブ》が、町の「ナゾ」を通じ地域について知ることで、星愁生と地域との交流を促進し、また地域の歴史への理解を深めることを目的としたものである。本企画の取材及び調査は生徒の実力により為されるというチャレンジの面を持ち、これは生徒の主体的・対話的で深い学びを狙いとしたアクティブラーニングの考えに基づくものである……


 他にもあれこれと書かれていたが、ようするに地元の「噂」の真相を高校生が調査し、それを学校新聞の記事にするということらしい。

茉莉まつり広報、これについてどう思う?」

「どうって……ツッコミどころは色々ありますが……これは通らないでしょう。先生方が良い顔しませんよ」

「そうかしら。大人って、自分の責任にならないのなら、子どもの自主性を大いに尊重してくれるものよ」

 書類の山の間から、会長は微笑する。

 ――つまりこれは、新聞部の企画を、生徒会が監督するという条件で通ったのか。

 生徒だけで完結するなら……。それでも大人の責任というものはどこかで発生すると思うが、会長のことだ、なんとかしたのだろう。

 この後の展開はなんとなく予想できる。が、一言くらいは反対意見を言わずにはいられないのが人の性だ。

「……私、オカルトエンタメな文章なんて書けませんよ」

「それは大丈夫。調査内容から記事を書くのは新聞部の仕事。で、生徒会の仕事はその調査の舵取り、監査ね――そうそう、記事には新聞部と生徒会の担当者、つまりはあなたの名前も載るけど構わないわよね?」

 どうやら、会長の中で私がこの件の担当になることは決まっているらしい。

 すでに決まった企画なら、今更文句を言っても変えられないし、広報に白羽の矢が立つのも自然な流れといえなくもない。……なんてこと、引き受ける以外にない。

 漏れでそうになる溜め息を堪え、話を進めることにした。

「それは構いませんが……新聞部側の担当者って、この《オカルトクラブ》の?」

「ええ、香坂詩音こうさかしおんさん。新聞部所属の一年生。入部してすぐ、この企画を持ち込んだんですって」

「へえ……」

 ふたたび企画書の署名に目を向ける。

 コウサカシオン――変わった子もいるものだ。

「記事は毎週金曜日の目玉にするらしいから、早速会ってみたらどうかしら。この時間なら新聞部部室にいると思うわ」

「へえ!?」

 今日は火曜日。確か新聞部は、記事の更新を昼休みにするから、遅くても金曜日の朝には記事が出来てなければ色々と間に合わない。とすると、調査自体の締切は木曜日の放課後――今週の締切まで、今日を入れても残りは三日間。

「全然時間ないですよ……」

「ええ、だから早く新聞部へ行ってらっしゃい。頑張ってね、茉莉広報」

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