第52話 ジーン

 俺とステラは今日の売り上げを抱えて、大翔とポールのもとに向かった。

「おい、大翔、こっちは売り切れたぞ」

「あ、健。こっちもそろそろ売り切れそうだよ」


 大翔が俺の方に歩み寄ってくる途中でお客さんに呼び止められた。

「ありがとうございます」

 大翔がにっこり笑う。ポールが空になったカバンを俺たちに見せた。


「売り切れだ」

 ポールが得意げに言う。

「よかったな」

 俺が微笑みかけると、ポールは驚いたようだった。

「なんだ? お前、笑えるのか?」

「……失礼だな」

 俺が軽く睨むとポールが「その顔の方が自然だ」と憎まれ口をたたいた。


「ねえ、健はジーンさん見た?」

「いいや」

 俺の答えを聞き、大翔は首を少し傾げて言った。

「じゃあ、ちょっと一緒に探してくれるかな?」

「いいけど、なんでだ?」

「ポール君とステラちゃんも市場で店を開けるように、ジーンさんにお願いしようと思って。

「そうか」


 俺は人混みの中で、きょろきょろとあたりを見回した。ジーンはでかいから、ひとの群れから頭が飛び出しているはずだ。

「あそこじゃないか?」

「あ、そうだね! 行こう!」


 俺たちはジーンのもとに歩いて行った。

「ジーンさん!」

 大翔がジーンに駆け寄る。

「大翔? おはよう。どうしたんだ?」

「おはようございます。実はジーンさんにお願いしたいことがあって」

「なんだ?」


「ポール君とステラちゃんも、市場でお店を開きたいそうなんです」

「おや、坊やたち、そうなのかい?」

 ポールは真剣な顔で頷いた。

「そうだなあ。大翔と健の頼みなら良いかなあ。ちゃんとお金を払って、俺の言うことも聞いてくれるか?」

「はい!」

 ポールが元気に返事をした。大翔も頷いている。

「で、いつから店を開くつもり?」

「できれば来月から、かな?」

 大翔がポールに確認すると、ポールは頷いた。


「了解。来月までに書類を持ってくるから、大翔くんが保証人になってくれるかな?」

「はい」

「おい、大翔、保証人なんて……」

 俺が渋い顔をすると、大翔は笑って俺の手を握った。

「ポール君とステラちゃんなら、大丈夫だよ」


 ジーンは、話は終わったという様子で手を振った。

「じゃ、またな」

「はい」


 ジーンが人込みに消えると、大翔は「それじゃ、帰ろうか」と言った。

 ステラは俺たちの一歩後ろを歩いている。俺はステラの様子をうかがった。

「今月末で……お別れなの……?」


 ステラは寂しそうにつぶやいていた。


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異世界でのんびり食堂経営 茜カナコ @akanekanako

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