第45話 提案

「でも、君たちがしたことは悪いことだって、わかってるよね?」

 大翔(ひろと)が少年に聞いた。


「お兄ちゃん……」

「ステラ、大丈夫だ。お前は母さんのところに行け」

「お兄ちゃんと一緒にいる! だって、私たち悪いことしてないもん! 一生懸命作ったものを売っただけでしょう!?」


 少女が少年に訴えるように言った。大翔が少しかがんで少女に話しかける。


「君……えっと……。僕は大翔。君の名前は?」

「……」

 少女は少年を見上げてから、その背中に隠れた。

「……名前を聞いてどうする?」

 少年は今にもかみつきそうな顔をして大翔を見ている。


「君たち、お母さんを助けたかったんじゃないの? 僕たち、力になれればと思って」

「大翔!?」

「健(たける)、この子たちはきっと困って……どうしようもなくて僕たちの店を騙ったんじゃないかな?」

「……許すのか?」

「うーん……このまま放っておくわけにはいかないけど」


 大翔は困っている顔で、口に手を当てて何か考えている。


「市場に俺たちの店の商品の偽物が出回ったんだぞ? レンやジーンに取り締まってもらった方がいいだろう?」

「レンさんたちに相談して大事にするのも……かわいそうじゃないかな? 困ったときはお互いさまって言うじゃない」

「……大翔は甘いな」


 俺はため息をついた。

「で。お前はどうしたいんだ? 大翔」


 大翔は少年を見つめて言った。

「偽物を売るのはやめてほしいんだ。だって、僕たちの作ったものだと思ったのに、違うものを渡されたら、お客さんが困るでしょう? だから」

「だから?」

 俺は眉間にしわを寄せたまま、大翔に尋ねる。


「この子たちに、サンドイッチとか、おにぎり作りを手伝ってもらって、その代わりにお金を渡そうかと思ってる」

「は? こいつらを雇うのか? 嘘をついて平気な奴らを信じるのか!?」

 大翔のお人よしさ加減に、俺はあきれかえった。


 少年が言った。

「平気で嘘をついてるわけじゃない! ただ……お金が……どうしてもお金が欲しかったんだ……。俺だって……妹にまっとうな仕事をさせたいよ」

「じゃあ、決まりだね。君の名前を教えて?」

「……ポール。妹はステラだ」

「よろしく、ポール君、ステラちゃん」

「おいおい、本気かよ……」


 大翔はポールとステラに手を差し出し、握手を求めた。



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