第37話 食事

食堂にはまだ誰もいなかった。俺たちは、部屋の番号が書かれた札の置かれている席に着いた。

「健、窓辺の席だよ! って言っても見えるのは林くらいだけど」

「そうだな。ほかの人は……ぼちぼち集まってきたみたいだな」

 俺たちが周りをきょろきょろとみていると、ミナがやってきた。


「大翔さん、健さん、今日はありがとう。食前の飲み物はお酒が良い? ジュースが良い?」

「僕たちはジュースかな? ね、健」

「ああ」

「はーい」


 ミナは食堂の中央に置かれた台からジュースの入った瓶を持ってきて俺たちの席においた。そして、グラスを二つ並べた。

「今日の料理はとびきりおいしいよ! 期待してね」

「うん、楽しみ」

「ああ」


 運ばれてきた料理は、魚や貝やエビの炭火焼、魚介類の塩鍋だった。炭火焼は塩レモン味だ。

「美味しい! ね、健」

「ああ、美味いな」

 俺は炭火焼をつついて、ジュースを飲んだ。

 大翔はふうふう言いながら、魚介類の塩鍋を食べている。


 周りのテーブルから、驚く声が聞こえてきた。

「なんだ!? この味は!! こんなに美味いものがあるなんて!!」

「今日のディナーは今までと違うわね。すっごく美味しい!」

 喜ぶ声を聞いて、俺と大翔はミナの方を見た。ミナは俺たちに向かってピースサインをしている。


「塩が変わると、全然違うんだな」

 俺が感心してそう言うと、大翔は得意げに頷いた。

「塩は料理のかなめだよ」

 大翔はにっこりと微笑んで炭火焼をつまんだ。

 俺たちが食事を終え、部屋に戻ろうとしているとミナが声をかけてきた。

「大翔さん、健さん! お塩、あんまり残らなかったんだけど……」

 ミナの手にはげんこつサイズの瓶に入った塩が握られていた。


「ミナさん、僕たちの分の塩は交易の人に渡すよう頼んでもらえば良いよ。それは明日の朝ごはんに使ってもらえるかな?」

「え! いいの?」

「うん。いいよね、健?」

「ああ」

「やった!」

 ミナは嬉しそうに笑って大翔に抱きついた。


「ちょ、ちょっと、ミナさん!!」

「あ、ごめん! つい嬉しくて!」

 大翔はミナから離れると俺の手を握ってため息をついた。

「おどろいた」

「ごめんって」

 ミナは笑いながら厨房に戻っていった。


 俺たちは部屋に戻り、帰り支度を始めた。

「なんか、塩作りばっかりになっちゃった。ごめんね、健」

「いや、大丈夫だ。美味しい塩もてにはいることになったし、よかったんじゃないか? 大翔」

「うん」


 俺たちはベッドに入り、遠くから聞こえてくる波の音に耳を澄ませた。

「あっという間だね」

「そうだな」


 翌朝、食堂に行くと目玉焼きとジャガイモのソテーが並んでいた。

 かたいパンをかじりながら、目玉焼きを食べる。

「目玉焼き、おいしいね」

「そうだな」

 目玉焼きは程よい塩加減で、俺たちはにっこりと笑った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る