第35話 塩作り

「美味しかったね、健」

「そうだな、大翔」

 俺たちは食事を終え、バーベキューの後片付けを手伝っていた。


 大翔が、思いついたように俺に言った。

「ねえ、ミナさんに言って、木べらと鍋と網のボールを借りてきてもらえるかな? あと、外にあるかまども借りたいって言ってもらえる?」

「分かった。何に使うんだ?」

「塩作りだよ。バーベキューの片づけが終わったら、塩作りに使う海水を汲んで来ようと思ってる」

「汲んでくる? 海からか?」

「うん。水筒も持ってきたからね」


 バーベキューの片づけが終わった後、俺はミナに大翔が言っていた木べらと鍋と網のボールを借りられるか、外のかまどを使っていいかを聞いた。

「良いですよ。あ、私にも塩作りおしえてくださいね」

「ああ、大翔に言っておく」

 俺はひとまず、借りた道具をかまどのそばに置いて、部屋に戻っている大翔のところに移動した。


「大翔、ミナから道具とかまどを借りたぞ?」

「ありがとう、健。じゃあ、海水を汲みに行こう! あと、帰りに薪を買ってこようね」

「分かった」

 俺たちは水筒と金を持って、まずは海に向かった。


「あ、あっちのほうがきれいな海水が組めそうだよ」

「そうだな」

 俺たちは持ってきた四つの革製の水筒に海水を汲んだ。水筒はカバンにしまう。

「あと、薪を買ったらホテルに戻ろう」

「分かった」


 街はずれの雑貨屋で、薪を買えた。薪はかさばるので、荷車でホテル・ザ・サンまで運んでもらえるように交渉した。

 俺たちがホテルに戻り水筒の海水を、布を入れた網のボールに注ぎ、鍋に注いでいると薪が届いた。


「これで、道具と材料はそろったね」

 大翔が嬉しそうに笑った。

「あ、ミナさん、塩作りはじめますよ!」

 大翔がミナに声をかけた。

「わあ、教えてください」

「まずは、汲んできた海水をろ過してごみを取ってから鍋に入れます」

「うん、うん」

 ミナは大翔の説明をメモしている。


「で、この海水が十分の一になるくらいまで煮詰めます」

「へー。そこまでは私の知ってる塩作りとかわらないなあ」

 ミナさんが大翔に言った。

「とりあえず、鍋をかき混ぜながら、水分を飛ばすのか?」

 俺が大翔に尋ねると、大翔は頷いた。

「ミナさんはいそがしいだろうから、また次の工程に入ったら声をかけましょうか?」


 大翔の提案にミナがにっこり笑った。

「そうしようかな。ありがとう、大翔さん」

「いいえ」

 ミナはホテルの中に入っていった。

「じゃあ、俺たちは海水を煮詰めるか」

「うん」

 大翔が頷いた。

「鍋に焦げ付かないように、鍋底をかき混ぜるんだな……。薪の補充は大丈夫か?」

「うん。大丈夫。途中で交代しようね」

「そうだな」

 俺たちは地味な海水を煮詰めるという作業を我慢強く続けた。


 腕がぱんぱんになった頃、ようやく海水が十分の一くらいまで煮詰まってきた。

「ミナさん! 次の工程に進みますよ?」

「はーい」

 ミナがやってきてから、大翔が言った。


「次はこの煮詰めた海水をろ過して、不純物を取り除きます」

「え? これ、塩じゃないの?」

 ミナが不思議そうな顔をした。

「うん。今固まってるのはミネラルとか、塩じゃないものなんだよ。これをとらないと、苦みや変な風味がのこっちゃうんだ」

「へー」


 俺と大翔は、新しい鍋に、布を引いた網のボールを置き、煮詰めた海水をろ過した。

「わ、けっこうざらざらした結晶ができてるね、健」

「ああ、そうだな」

 俺たちに、ミナが尋ねた。

「これで、どのくらいの塩ができるの?」

「うーん、握りこぶし半分も行かないくらいかな?」

 大翔が言うと、ミナが驚いた。

「ええ!? そんなに少しなんだ……」


「さあ、綺麗になった海水から水分を抜くぞ」

「うん」

 俺と大翔は交代しながら、濃くなった海水をさらに煮詰めた。ミナはその様子をじっと見ている。完全に海水が煮詰まる前に、火から鍋を下ろし塩をとりだした。

「やった! 塩が出来たよ!」

「ああ、完成だ」

 俺たちはやりとげた気持ちになって、ハイタッチをした。

「ちょっと、味見していい?」

「どうぞ」

 ミナが出来上がったばかりの塩を棒に少しとってなめた。

「あ、苦みもえぐみもほとんどない!」

「ふふっ」

 おどろくミナを見て、大翔が得意げに微笑んだ。


参考:塩百科(https://www.shiojigyo.com/siohyakka/experiment/exp12.html)

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