第30話 ホテル・ザ・サン

「私はミナ。ここで働いてるの。荷物、運ぼうか?」

「はじめまして、ミナさん。僕は大翔。荷物は自分たちで運ぶから大丈夫」

「俺は健だ」

 皆は右手を差し出した。大翔が握手し、次に俺がミナと握手した。


「チェックインはこちらでお願いします」

 いつの間にか、ホテルの入口受付に男の人がたっていた。

「あれは、家の支配人のレイモンド。ま、私の父さんなんだけどね」

「健、泊まるのは、ここでいいよね」

「ああ」

 俺たちは荷物をもって受付に移動した。


「じゃあ、ここに住所と名前、宿泊期間を書いてください」

 レイモンドの指示に従って、用紙に必要事項を書き込んだ。

「今日から二泊三日だね。食事はどうしますか? うちで食べますか?」

 大翔がレイモンドに尋ねた。

「このあたりに、おすすめのレストランとか食堂ってありますか?」

「うーん……浜辺のそばにはレストランがありますよ」

「わかりました」


 大翔が俺のほうを向いて、小さな声できいてきた。

「健、朝食はこのホテルで食べようと思うんだけど、夜ご飯は一回はレストランに行ってみたいんだけど、どうかな?」

「それなら、今日の夜ご飯はレストラン、明日の夜ご飯はこのホテルにするか?」

「うん」

 大翔はレイモンドに言った。

「今日の夜は外で食べてきます。明日の朝と明日の夜、明後日の朝はホテルで食事をとりたいです」

「はいはい。わかりました」


 レイモンドは台帳のようなものに何か書き込むと、それをぱたんと閉じた。

「それじゃ、お部屋に案内しますね。あ、お荷物は?」

「自分たちで運ぶから大丈夫です」

 大翔がにっこりと笑う。俺も頷いた。

「そうですか? ではこちらの階段を上っていきますね」

 

 レイモンドは階段を上がった。俺たちは荷物をもってそのあとを追いかける。

「こちらのお部屋です」

 階段のすぐ近くの部屋に通された。

「あ、町の向こうに海が見える」

 大翔が荷物を入り口わきに置いて、部屋に入った。

「わるくない眺めだな」


 俺も荷物を置き、部屋の中央に進む。

「飲み物はご自由にお召し上がりください」

 俺は部屋を見渡した。少し広い部屋の中央に洒落た木の机があって、その上に瓶に入った飲み物がおかれている。右手にはベッドが二つ。左手にはどうやらバスルームがついているようだ。


「それでは、こちらがカギです」

 木の飾りがついたカギを渡された。

「よろしくお願いします」

「どうぞ、楽しい時間をお過ごしください」

 レイモンドが出て行った。


「うわあ、ベッドがふかふか」

 大翔はさっそく窓際のベッドに寝転がっている。

「今から、海に行くか?」

「うーん、ちょっと休憩してからにしようかな」

「そうか」

 俺は机に置かれた瓶から、カップに飲み物を移して一口飲んだ。

「……水だ」

「もう一つの瓶は?」


 俺は空いているコップにもう一つの瓶の中身を少しだけ注いだ。

「なんか、薄い茶色の液体だ」

「え?」

 大翔が俺の近くに来て、コップを取った。においをかいでから、一口飲んだ。

「あ。たぶんお茶だと思う。薄いけど」

「そうか。大翔は水とお茶、どっちを飲む?」

「……水」

「……俺もだ」


 二人で水を飲み、それぞれのベッドに転がった。

「疲れたね、健」

「ああ、馬車が混んでて大変だったな」

「でも、海のにおいとか、波の音とか、安らぐ感じだね」

「そうだな」


 気が付くと、窓から差し込む光が夕暮れを告げていた。どうやら俺たちは少し眠っていたようだ。

「健、そろそろ海辺にいかない?」

「ああ、食事もあるし、行こうか」

 俺たちはカギと、貴重品を入れた小さなバックをもって浜辺に向かった。

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