第22話 結婚式

 結婚式当日、空は青く晴れ渡っていた。

「おはようございます」

「あ! おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」

 ローブをまとった見知らぬ男が、俺たちに挨拶してきた。大翔は嬉しそうに笑って頭を下げている。


「この人は誰だ? 大翔?」

「神父様だよ。レンさんに紹介してもらったんだ」

「そうか」

「私はどこにいればよいのでしょうか?」

 神父は困ったような顔で笑っている。


「えっと、こちらにお入りください」

 大翔は神父を家の中に案内し、食堂の椅子に座らせた。


 ドアをノックする音が聞こえた。


「はい、いらっしゃいませ」

「おはようございます」

「今日はよろしくお願いします」

 アンとホークが荷物を抱えて現れた。

「おはようございます! 今日はおめでとうございます!」


 大翔が言うと、アンとホークは「ありがとう」と言った。

「こちらへどうぞ」

 俺はアンとホークを二階の客室に通した。

「着替えをお願いします」

「はい」


 俺と大翔は部屋の飾りつけの最終チェックをしてから、キッチンでご馳走の仕上げをした。大きなケーキも用意してある。


「おはようございます」

 開けていた扉から、ホークに似た老人夫婦と、アンに似たドワーフの夫婦がやってきた。

「おはようございます」

「こちらへどうぞ」

 俺は食堂のテーブル席にみんなを座らせた。


「この度は……うちの息子をよろしくお願いします」

「こちらこそ、うちの娘を頼みます」

 両家の中は良好らしい。すぐに和気あいあいとしゃべり始めた。

「大翔さん、健さん、着替え終わりました」

 ホークさんの声が聞こえた。


「それでは神父様、こちらにお立ちください」

 食堂の机のわきに神父が立った。

「俺がホークとアンを連れてくる」

「おねがい、健」

 俺は二階からホークとアンを連れてきた。


「まあ、綺麗」

「かっこいいぞ」

 両家の家族がスーツ姿のホークとドレス姿のアンを見て、声を上げた。

「それでは、これから結婚式を行います。神父様、よろしくお願いします」

 健の言葉で、神父がホークとアンに話しかけた。


「これから、お互いを尊重し慈しみ合うことを誓いますか?」

「誓います」

「それでは誓いのキスを」

「……」

 ホークとアンがキスをすると、みんなが拍手をした。

 

「それでは、私はこれで失礼します」

「ありがとうございました」

 大翔が神父に金貨を渡すと、神父は町に帰っていった。

「さあ、ケーキを切り分けてください。ホークさん、アンさん」

「はい!」

 ラズベリーがたっぷり乗った、大きな四角いケーキをホークとアンが一緒に切り分けた。

 俺と大翔は切り分けられたケーキをお皿に乗せて、みんなに配った。

「それではお召し上がりください」

 俺と大翔は紅茶をいれて、それぞれみんなの席の前に置いた。


 ケーキを食べ終えて、お皿を片付けてから、作っておいたとっておきの料理を机に並べた。

「皆様、お食事をしながら、ご歓談ください」

 机の真ん中には、ワインで良く煮込んだイノシシを置いて、サラダやイノシシのステーキや、チーズオムレツや、野菜のフライなどを周りに並べた。

 みんなの席の前には、お皿とナイフとフォーク、スープが並んでいる。


 ホークとアンも席に着いた。ホークがアンの皿に料理を取り分けると、アンはホークの皿に料理を乗せた。

「いただきます」

 ホークとアンは、自分たちの両親がご馳走を食べ始めるのを見てから、お皿に手を付けた。


「うわあ、おいしい!」

「このイノシシの煮込み、噛めば噛むほど味が出てくる!」

「さっきのケーキもおいしかったけど……このステーキもたまらないわ」

 みんな、料理を喜んでくれているみたいだ。

「アン、ホーク、幸せになるんだよ」

「はい、お父さん、お母さん」

 料理を食べながら、アンとホークの家族は涙ぐんでいた。


「まさか、神父様がきてくださるとは思わなかったわ」

「種族が違うから、神の祝福は得られないと言われると思っていたから驚いたよ。ありがとう」

 ホークとアンが、嬉しそうに大翔と俺に言った。

「お礼を言うなら、レンと大翔に言ってくれ。俺は何もしてない」

「お礼なんて……僕もレンさんに相談しただけだから、お礼はレンさんに言ってください」

「わかった。でも、ありがとう」

 ホークとアンは目に涙を浮かべて、もう一度俺たちに礼を言った。


 たくさんあった料理は綺麗になくなっていった。

 食事を終えると、ホークとアンが家族に言った。

「今日は集まってくれてありがとうございました。これからも私たちをよろしくお願いいたします。いままで育ててくれて、ありがとう、お父さん、お母さん。僕たちはもっと幸せになります」


 ホークとアンの挨拶で、結婚式は終わりになった。

「今日はありがとうございました」

 ホークとアンの家族が俺たちに頭を下げた。

「いいえ、おめでとうございます」

 大翔もお辞儀をしている。


「アン、そろそろ着替えようか」

「そうね、ホーク」

 アンとホークは二階に行き、来た時の格好に着替えて戻ってきた。

 

「それでは、今日は遠いところまでお越しいただきありがとうございました」

 大翔が言うと、ホークとアンは嬉しそうな表情で俺たちに言った。

「こちらこそ、結婚式を挙げてくださってありがとうございました」

 店の前に、ホークたちみんなが集まり、それぞれの家に帰ろうとしていた。


「また、食事にいらしてくださいね」

「ええ、是非」

 遠くなっていくホークたちを見送った後、俺たちは家の中に戻った。

「良い式だったな」

「うん。みんな喜んでたね」


 部屋の隅で、珍しそうに見ていたアイラが大翔のそばに飛んできた。

「終わったの?」

「うん」

「ご馳走の残りはある?」

「ちょっとだけあるよ、アイラは食いしん坊だなあ」

「えへへ」


 俺たちは食堂の片づけをしてから、余分に作っていたご馳走を食べることにした。

「結婚式は大変だね、健」

「まあ、そうだな」

「でも、みんな嬉しそうで、こっちも楽しくなるね」

「ああ」

「大翔、チーズオムレツ美味しい! サラダも!」

「良かった。アイラ」

 

 食事を終え、一息つく。

 食後のコーヒーを俺が淹れて、大翔の前に置いた。

「お疲れ様、大翔」

「ありがとう、健」

「レンにもお礼を言わないといけないな」

「そうだね」

俺たちはみんながいなくなってガランとした食堂を見て微笑んだ。


結婚式は思っていたよりも楽しいものなんだな、と俺は思った。

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