第16話
家に帰った俺たちは、食事会のメニュー決めをはじめた。
大翔が紅茶を三人分入れて、食堂の机の上に置いた。アイラはすみっこで静かに紅茶を飲み始める。アイラの紅茶には、大翔がたっぷりと蜂蜜を入れていた。
大翔は食堂の椅子に座り、頬杖をついて言った。
「僕は……ハンバーグがいいかなと思うんだけど」
「良いな。ほかには何を作る?」
俺は大翔の向かい側に座って、熱い紅茶を一口飲んだ。
「サラダとクリームシチューかな」
大翔は紅茶に蜂蜜を入れてから飲んだ。
「あとは、デザートに何か甘いものをだすといいんじゃないか?」
俺はレンがプリンを食べて感動していたことを思い出して、大翔に言った。
「それなら、蜂蜜をかけたパンケーキなんてどうかな?」
大翔は優しく微笑んで、もう一口甘い紅茶を飲んだ。
「うん、ばっちりだ」
俺もにっこりと笑って紅茶を飲み干した。
翌日、市場と薬屋で必要な食材やハーブを買ってから、冒険者ギルドに顔を出した。アイラは森に遊びに行っている。
「こんにちは」
大翔があいさつをすると、レンが顔をひょいとだして答えた。
「やあ、君たち。待ってたよ。ジーンに食事会のことを伝えたら、是非行きたいって言われたよ」
レンはそう言って、にこっと笑った。
「ありがとうございます、レンさん」
大翔は頭を下げた。俺たちの大荷物を見て、レンが言った。
「その荷物は……食材かい?」
「ええ、そうです」
俺が答えると、レンはワクワクしたような顔で言った。
「楽しみだね。食事会では何が出てくるんだい?」
「それは……」
大翔が答えようとしたが、俺はそれを止めて言った。
「食事会の時のお楽しみだ。……今は秘密だ」
「ふうん。ケチ」
そういいながらも、レンは嬉しそうに微笑んでいる。
「ジーンについて何か気を付けたほうがいいことはあるか?」
俺がレンに聞くと、レンは笑って答えた。
「ジーンは、とっつきにくいかもしれないけれど根はいいやつだから特に心配しなくていいと思うよ」
「……そう、なら良かった」
大翔は市場で俺たちにすごんだジーンの姿を思い出していたのかもしれない。緊張がすこし溶けたような顔で、大翔は俺に笑いかけた。
「じゃあ、明日の夜に君たちの食堂にジーンを連れて行くよ」
「わかりました」
大翔と俺は頷いて、レンに別れを告げた。
家に帰る途中、大翔は目を輝かせていた。
「なんか、僕たちの料理がこんなに楽しみにされてるなんて嬉しいね、健」
「……まあ、そうだな」
レンはジーンにちゃんと俺たちが市場で商売できるように取り計らってくれるか、俺は少し心配になった。なぜなら、レンは食事会のごちそうのことしか考えていないんじゃないかというほど、俺たちの買った食材を見つめてはうっとりとした表情を浮かべていたからだ。
「レンさんて……ちょっとかわいいね」
「大翔はああいう女性が好みなのか?」
俺が横目で大翔を見ると、大翔は顔を赤く染めて首を横に振った。
「そういうのじゃなくて……感情に素直な人だなって思っただけだよ」
「そうか」
俺はなぜかほっとした気持ちになって、大翔の肩をかるく叩いた。
「さあ、帰ろう」
「うん」
家に帰ると、アイラが玄関のわきに座って待っていた。
「大翔、おなかすいた」
「アイラちゃん、おまたせしちゃってごめんね」
「私、プリン食べたい」
「わかったよ」
俺たちは家の鍵を開けて中に入り荷物を置いた。
大翔は三人分のプリンを冷蔵庫からとりだすと、食堂に並べた。
「今日はお疲れさま。アイラちゃん、森はどうだった?」
大翔に聞かれたアイラは、少しかなしそうな表情で答えた。
「やっぱり、私のおうちはもう住めないみたい。モンスターの足跡がいっぱいだったよ」
「そうか……森に行くときは気を付けないといけないな」
アイラの言葉を聞いて俺がそう言うと、大翔も表情を曇らせた。
「そうだね。森に行くときは、ちゃんと武器を持っていこうね、健」
森についてはそれ以上話すことはなかった。
俺たちはプリンを食べながら、改めて明日の食事会の段取りについて話し合った。
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