第14話

「アイラちゃん、寝ちゃったね」

「ああ、疲れてたんだろう」

 大翔と俺は、大翔の部屋にアイラを連れて行った。大翔の部屋の窓際に置かれた机の上にクッションを置きアイラを寝かせると、その上にタオルをかけた。


「健、明日は何をするか決めてる?」

「いいや」

 大翔はそれを聞くと、ニコッと笑って言った。

「それじゃ、市場に売りに行かない?」

「今日採取してきたものを売るのか?」

「ちがうよ。お弁当をつくって売ろうかと思って。ここで食堂をしようと思ってるけど、まだお客さんになってくれそうな人って一人もいないでしょ?」

 大翔の言葉に俺は頷いた。

「……だからね、お店の宣伝もかねて、市場で僕たちの料理を売ってみようと思って」

「それはいい考えだな」

「それじゃ、さっそく準備をしようよ」


 俺たちは明日の朝売るためにパンを焼き始めた。

「パンを焼いたら、もう寝よう。明日の早朝にサンドイッチを作ろう」

「分かった」

 パンを焼き終えると、俺たちはそれぞれの寝床についた。


 太陽の光がまぶしい。今日も天気がいいようだ。

 キッチンに行くと、大翔がすでに調理を始めていた。

「おはよう、大翔」

「おはよう、健」

「アイラは?」

「まだ寝てるよ」


 大翔はキノコを炒めている。もう一つのかまどでは、湯の中で卵が踊っていた。

「キノコサンドと、卵サンドを作ろうと思って」

「どうやって持っていくんだ?」

「竹の皮に包んで売ろうと思ってる。健、昨日僕がとってきた竹の皮の掃除をしてもらえるかな?」

「了解」


 俺は大翔の指さしたほうから、竹の皮を見つけ出すと、一枚ずつ洗ってタオルで綺麗にふいた。

 食堂の机の上にまだ湿っている竹の皮を並べ終わったので、大翔に声をかける。

「終わったぞ」

「ありがとう」


 大翔は昨日焼いたパンを切って、キノコソテーをはさんでいた。

「美味しいって言ってもらえるといいんだけど……」

「大翔の料理なら大丈夫だろう」

 俺たちが話していると、アイラがキッチンにやってきた。

「おはよう、何してるの?」

「おはよう、アイラちゃん。今日は市場に行ってサンドイッチを売ろうと思ってるんだ」


 そう言って大翔はパンの耳にキノコソテーを乗せてアイラに渡した。

「食べてみてくれる?」

「うん。いただきます」

 アイラは一口でそれを食べると、目を丸くして大翔を見つめた。

「何これ!? すっごく美味しい!!」

「よかった」


 大翔は今度はゆで卵をむき始めた。

「手伝うぞ」

「ありがとう健」

 俺がゆで卵をむくと、大翔は卵と玉ねぎを刻んで自家製マヨネーズをいれてかき混ぜた。

 切ったパンに卵サンドの中身を集めに塗って、はさむ。

「それもおいしそう……」

 アイラが指をくわえて、俺たちの作業を見ている。


「アイラちゃん、どうぞ」

 大翔が今度は卵サンドの中身をパンの耳に塗ってアイラに渡した。

「ありがとう」

 アイラは一口食べると目をつむって、ひらひらと飛び上がった。

「おいしい!!」


俺と大翔は卵サンドとキノコサンドを十個ずつ作ると、竹の皮に包んでかごに入れた。

「それじゃ、かるく朝食を食べて市場に行こう!」

「ああ」

「うん」

 俺たちは、残ったパンの耳と、サンドイッチの中身を食べて朝食の代わりにした。


 家を出て、市場に向かう。

 町の中はまだ朝の冷たい空気が残っていた。

「市場に着いたぞ」

「じゃあ、空いてる場所で売り始めよう」

 俺たちはサンドイッチをいれたかごを持って、声を上げた。


「おいしくて持ち運べる食料です! 一つ銅貨一枚です!」

 俺たちに興味を持ったらしい旅人が声をかけてきた。

「それ何?」

「パンでキノコ炒めをはさんだものと、卵をはさんだものです」

「面白いね。一個ずつもらおうか」

「ありがとうございます」

 大翔がサンドイッチを渡すと、旅人はおもむろにそれを食べ始めた。


「! なんだこりゃ!? すっごく美味しい……!! もう一つずつくれ!!」

「ありがとうございます!!」

 大翔がサンドイッチをもう一度渡すと、旅人は銅貨を四枚、大翔に差し出した。

「なんだ? なんか美味いもんがあるのか?」

「はい! キノコと卵のサンドイッチです! パンにはさんだ携帯食です!」

「俺も一つもらおうかな。キノコのほうを頼む」

「はい、銅貨一枚です!」


 いつの間にか、俺たちの周りには人だかりができていた。

「お兄さん、こっちにも一つ」

「こっちは二種類」

「はい、順番にお願いします!」

 大翔と俺は順番にサンドイッチを渡し、銅貨を受け取った。


 あっという間にサンドイッチは売り切れた。

「俺にも一つくれよ!」

「ごめんなさい。今日は売り切れです! また明日もって来ます」

 大翔があやまった後、俺は言った。

「町はずれで食堂をやってます! サンドイッチ以外にも、おいしい料理があります! よかったら来てください!」

「へー。そりゃいいな」

 人だかりから、興味を持ってくれたらしい声が聞こえてきた。


「それじゃ、今日はこれで失礼します」

 大翔が俺のそでをひっぱって、市場を出ようとした。

「ちょっと、お兄さんたち。だれの許可を得て市場で商売してるんだい?」

 背の高い30代くらいの男性が声をかけてきた。

「許可?」

「ああ、ここは俺の縄張りだ。勝手に商売されちゃ困るんだよ」

「えっと……」

「お前たち、名前は?」

「大翔です。こっちは……」

「健だ」

「大翔に健。今日の売り上げは場所代としていただこう」

「え!? そんな!?」


「おれはジーン・フライド。この辺で商売をしたけりゃ、先に俺に話を通しな」

「……いくぞ、大翔」

「……健」

 俺たちが立ち去ろうとすると、ジーンは手を突き出してきた。

「場所代をよこしな」

「……」

 あたりを見渡すと、市場で商売をしている人たちはみんな、渋い顔で頷いている。


「……分かりました」

 俺たちは稼いだ銅貨をジーンに渡した。

「良い心がけだ。明日からも商売をしたければ、俺のことを忘れるんじゃねえぞ」

「……行こう、健」

「ああ」

 俺たちは冒険者ギルトに向かった。

 レンに市場のルールを教えてもらうために。


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