第7話
レンに渡された地図をみながら、町はずれのもと宿屋に向かった。
建物の鍵は、さび付いてはいないけれどずいぶん古いもののようだ。
「大翔、どんなところだろうな?」
「健と一緒なら、どんなところでも大丈夫だよ」
大翔は時々無邪気にとんでもないことを言う。俺は赤面したのを隠すように顔に手を当てて大翔に背を向けた。
「あ、あの建物じゃない?」
「そうみたいだな」
大翔の指さした方向に、一軒の宿屋らしき建物があった。
俺たちは足早にそこに向かった。
もと宿屋は、外側の壁の白いペンキが所々剥げていた。
「開けるよ? 健」
「ああ」
大翔は鍵をカギ穴に差し込んだ。鍵を回すとガチャリ、という音がした。
「お邪魔します……」
大翔がドアを開く。大翔は俺に先に行ってほしい様子で、すがるような眼で俺を見つめた。
「入るぞ!」
俺が中に入ると、そこは埃だらけだった。
「すごい埃だけど、食堂もキッチンもしっかりしてるね」
後から入ってきた大翔は、いつのまにか俺より先にあたりを見回している。
食堂にはテーブルが二つ。
「二階は個室みたいだよ!」
大翔ははしゃいだ様子で会談の上から、俺に声をかけた。
俺も二階に上がった。
床はきしむこともなく、建物のつくりがしっかりしているのが分かった。
「お客さん用の部屋が二つ、住居用の部屋が二つって感じだね」
大翔に言われて、俺も二階の部屋を一つずつ覗いた。
二つの部屋にはシャワーとトイレがついていた。
反対側に行くには扉があって、その扉の奥にベッドルームとトイレ、シャワールーム、物置があった。
「それじゃあ、健。これから掃除をしよう!」
大翔は生き生きとした表情で言った。
「了解」
俺は物置に入り、掃除道具を探すとほうきとちりとり、雑巾があった。
大きな桶もあった。
「大翔、この桶はなんだろう?」
「あ、それで洗濯ができるね! 洗剤はあるかな?」
「桶のわきに粉がある」
「それ、石鹸じゃないかな? ちょっと試してみる」
俺は桶と粉を大翔に渡した。
宿屋のわきには小川が流れている。
大翔は小川の水を桶に入れ、粉を入れてかき混ぜた。
「うん、泡が出る。やっぱりこれ、石鹸だね」
大翔の声に俺も答える。
「家の裏側に物干し台もあるな」
「じゃあ、明日は布団を干して、シーツやタオルを洗濯しよう」
家事が得意な大翔は、嬉しそうに言った。
「了解」
俺は平静を装ったが大翔との二人暮らしが始まることに、少なからずドキドキしていた。
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