第3話
俺たちは冒険者ギルドへ向かって歩き続けた。
街並みはシンプルな石造りで、道は少しほこりっぽい。
すれ違う人たちは、『異国の服』を身にまとった俺たちをチラリと見る。
「健(たける)、冒険者なんて……やったことないけど大丈夫かな?」
大翔(ひろと)は不安そうに俺の目を見上げた。やや小柄な体を丸めているから、俺より頭一つ分目線が下がる。やや茶色い髪の奥に、茶色の瞳がキラリと光った。
「俺もないよ。だけど大翔、とりあえず仕事と寝る場所を確保しないと……」
二人で話しながら歩いていると、大通りから一つ入った路地に、重そうな扉の大きな建物が見えた。
「ここか?」
俺がそう言って扉を開けると、中にはいろんな鎧や服、ローブをまとった人々がざわめいていた。壁には賞金首の絵が描かれた張り紙が何枚も貼ってあった。
「そうみたいだね」
大翔は俺の背中に隠れるようにして立っている。俺よりも小さな大翔の手が、俺の手を掴んで離さない。
「あら、見ない顔ね。その服も見たことないわ? どこから来たのかしら、坊や達?」
大柄で、セクシーな服を着た女性がカウンターの中から話しかけてきた。体の線が丸見えで、胸元も強調されていて目のやり場に困る格好だ。俺は女性の体から目をそらして言った。
「俺たちは、仕事と住むところを探しに来た。こいつは酒井(さかい)大翔(ひろと)。俺は山城(やましろ)健(たける)だ」
俺がそう言うと、女性はニヤニヤ笑って言った。
「あらー。あなたたちは恋人同士?」
「ちっ違います!! 親友です!!」
大翔は俺とつないでいた手を離すと、真っ赤な顔で強く否定した。
「うふふ。照れちゃって可愛い」
俺は大翔を守るように、女性に向かって立つ。
「あらあら、ごめんなさいね。怒らないで頂戴。私はこの冒険者ギルドのマスター、レン・ソローよ。レンって呼んでね」
レンは俺たちを頭から足の先まで一通り眺めると、首をかしげた。
「あなたたち、何が出来るの? 職業は? 剣士? 魔法使い?」
「まだ、こちらの世界にきたばかりで……正直なところ、自分達も分からない」
「あら、そうなの?」
レンは、面倒くさそうな表情を浮かべ、ため息をついた。
「あ、あの! 僕たち料理ができます!!」
大翔が俺の背中から顔をぴょこっと出して、レンに言った。
「あら、料理人志望? それなら丁度、廃業した宿屋が町外れにあるわ」
レンは町の地図を棚から出し、町外れの元宿屋を指さした。
「建物は好きに改装して良いわよ。ただし、ちょっとお高いかしら?」
レンの言葉に俺は反応した。
「いくらだ?」
「金貨一枚。でも、それだけじゃ足りないわね……」
レンは俺たちを値踏みするように見つめている。
「あなたたちの言う料理が通用するか、確かめたいわね……」
「……どうすれば良いですか?」
大翔が遠慮がちに、レンに訊ねた。
「そうね。ここの厨房を貸してあげるから、なにか作ってみて頂戴」
「え!?」
大翔が声を上げた。
「私の舌を唸らせることが出来たら、宿屋を売ってあげる」
俺は不安そうな大翔に微笑んでから、レンに答えた。
「……分かった。大翔と一緒に料理を作ろう」
「ちょっと、健!?」
「大丈夫だ。大翔の腕なら問題ないだろ? 小さい頃から家の食堂の手伝いをしてるし」
大翔はそれを聞いて、俺に言った。
「でも、この世界にどんな食材や調味料があるか分からないし……」
二人で離していると、レンが声をかけてきた。
「今日はもう遅いから市場も閉まってるし……。明日のお昼に料理の腕を見せてくれる?」
「……そうしよう。良いな、大翔」
大翔はもじもじとしながら、地面を見ている。
「……僕、自信ないよ?」
俺は大翔の肩に手を乗せて、安心させようとした。
「大翔、俺も手伝う。それに、ここの料理のレベルなら、きっと楽勝だ」
「健がそこまで言うなら……分かった」
レンがニヤリと笑って俺たちに聞いた。
「話はまとまった?」
俺はレンを見つめて答えた。
「ああ。明日、厨房を貸してくれ」
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