第2話
俺たちは町の入り口に着いた。
町の周りには柵が立っているが特に警備の兵がいるわけでもない。
見ていると誰でも自由に出入りしている。
柵の脇には『リースの町』と書かれている。
どうやらこの町の名前のようだ。
「健(たける)、入ってみる?」
「行こう、大翔(ひろと)」
俺は大翔の前を歩いて、町の中に進んでいった。
「お兄さん達、どこの国から来たんだい? 変わった格好だね」
「……あなたは?」
俺は大翔をかばうように、声をかけてきた中年男性の前に立った。
「俺かい? 俺は料理人さ。よかったら、うちの店で食べていかないか?」
小太りな中年男性の背中の方を見ると、小さな食堂がある事に気付いた。
「大翔、どうする?」
「……食べていこうか。僕、お腹空いてるし……」
そう言われてみれば、俺も空腹だ。
「それじゃ、おねがいします」
俺がそう言うと、小太りな男はニカッと笑って店の扉を開いた。
「はい、お二人様ご案内!」
店の中にはテーブル席が二つとカウンター席が4つ並んでいた。
奥のテーブルにお客が3名ほど入っている。
「おすすめは?」
俺がたずねると、カウンターの奥に戻った男は元気な声で言った。
「日替わり定食が人気だよ!」
「じゃあ、それを……2つで良いか? 大翔?」
「うん」
「日替わり定食を2つお願いします」
「はいよ」
水などのサービスは無いらしい。
俺と大翔は店の様子を見ながら、静かに話した。
「なんか、中世ファンタジーみたいな世界だな」
「そうだね。ゲームみたい」
俺たちの服装はこの世界になじんでいないため、ずいぶん目立つ。
「お兄さん達、遠くから来たんでしょ? サービスだよ」
「ありがとうございます」
サービス、と言われて出された飲み物はお茶のようだったが、薄くて味はしなかった。
「……なんか僕、嫌な予感がする」
「……俺もだ」
不安な表情を浮かべた俺たちの前に料理が置かれた。
「はいよ! 今日の定食2つ!!」
「!?」
「っ!?」
目の前に置かれたのは、端の焦げたコッペパンのような形をした固いパンと、ゆでただけの鶏肉のような物だった。
「いただきます……」
おそるおそる肉を口にする。
一応塩味がついていたが、それだけだ。
「……ちょっと、この世界の食事って……不味いのかな?」
「……美味くは無さそうだな」
俺たちはお湯のようなお茶で、固いパンを飲み込みながら肉を食べた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「銅貨1枚ね」
「これしかないんだけど……」
大翔が小袋から金貨を一枚取り出すと、男の顔色が変わった。
「金貨!? ちょっと待ってくれ……ええと、ほら、銀貨99枚と銅貨99枚のお返しだよ」
「うわ、重い」
大翔はおつりを受け取ると、小袋に入れた。
お金を入れた小袋はパンパンになっている。
「お兄さん達、お金持ちだね。さては、異国の冒険者だね!」
俺はとりあえず話を合わせることにした。
「ああ、そうだ。まだ町に入ったばかりで様子が分からないんだ」
食堂の男は、うんうんと頷いたあとに言った。
「それなら、この町の冒険者ギルドに行くと良い。冒険者ギルドは店の前の大通りから東に入った小道にあるよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
男は得意げに言った。
「俺の料理は美味かっただろう? なにしろ隣の町から食べに来るお客もたくさん居るからな」
俺たちは何も言えずに苦笑いをした。
「なんか食事が不味いって、つらいね」
「そうだな」
俺と大翔は店を出て少し歩いてから、呟くように話をした。
「大翔、冒険者ギルドに行ってみるか?」
「うん、他にできることもなさそうだし……。健が居てくれて良かった」
大翔が嬉しそうに笑った。
俺は、心臓がドキリとしたのを大翔に悟られないよう、早足で歩き出した。
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