ツイート大戦草

メガ氷水

草草之草

 リプ欄に【草】【W】と書き込まれるたび、世界の砂漠に植物を生やします。

 ある日、一柱の神によって日本中へツイートが発信された。

 この時、誰もが思った。

 【これは草】と。

 もちろん、ツイートをした犯人である神、オダマキも我ながらくだらないことを考えたなぁと、腹を抱えて呟いた。


「いや草」


 っと。

 ニヤニヤしながらパソコンの画面に貼りつくオダマキ。

この世の醜悪さを練り込んだ笑みに、女神の一柱が呆れた調子で言葉を投げた。


「ま~た、くだらないことを企んでいるのね」

「邪魔すんなよ、パープー。これからが面白いんだから」


 女神、パープーは邪魔する気などサラサラありませんよとばかりにため息を吐いた。

 リプ欄にはすぐにコメントが書き込まれた。

 ある者は馬鹿馬鹿しいと歯牙にもかけなかった。

 またある者はやれるものならやってみろと小馬鹿に。

 またある者はお試し感覚でリプ欄に大量の【草】を書き込んだ。

 【草】

 書き込まれるたび、ツイ主のオダマキは「さて、仕事しますかね」と、砂漠に植物を生やしていった。

 変化が訪れたのは、ツイートが行われてから一か月経った頃だった。

 砂漠の中に、突如原因不明の草原が発見されたのだ。

 これを期にもしかしてこのツイートは本物なのではないかと、日本中に震撼が走った。

 試しに誰かが大量の【草】を書き込んだ。

 すると、またも原因不明の大森林が砂漠で姿を現したと世界的に報じられた。

 そこからは速かった。

 リプ欄が文字通り祭りになったのだ。

 【草】【W】と書き込むだけで砂漠に緑が広がっていく。

 大勢の人たちが大草原を書き込んだ。

 それから数日経つと、リプ欄に【草】【W】を書き込むな! とツイートが拡散された。

 確かに地球に緑が広がるのは良いことだ。

 しかしこのツイートは日本だけに発信されたものであり、勝手に植物を増やすのはどうなのか。

 砂漠という環境や文化を主観だけで消していいのか。

 そこに住む現地人、動物や生物はどう考えているのか。

 いきなり身近に森が現れたら困惑する。

 これは砂漠で暮らす人たちにとっては迷惑ではないかという趣旨の内容であった。

 このツイートには多くの共感が生まれた。

 確かに玄関開けて木々が広まっていて、それが自分の国とは関係の無い場所で、それも砂ばかりで可哀そうだから生やしてやった、なんて言われたらどう感じるか。

 ツイートは瞬く間に拡散されていく。

 しかし一部の人たちはこのツイートを機に、さらにエスカレートしていった。

 曰はく、植物を増やしているのだから現地人も喜んでいる。

 曰はく、好きであんな場所に生まれたのではないのだから、環境を整えてあげるべき。

 曰はく、私たちがやっているのは正義でお前たちは正義の揚げ足を取っているだけだ。

 過激派の連中は反論というには粗末で幼稚な正義を振りかざし、匿名という立場を使って反対を呼び掛けたツイ主を叩きに叩いた。

 騒動はテレビの生放送にも取り上げられる。

 中にはBOTを使って書き込む者まで現れた。

 傍から見ていたユーザーたちは、元凶であるツイートを書き込んだ神々を大いに叩いた。

 ついには承認欲求を満たすために、似たような投稿、不平や暴論を繰り出し大炎上をするものまで現れた。

 当然、水面下で行われているツイート戦争は神であるオダマキとパープーにも届く。

 人類の醜さは予想していた通りだと、画面に貼りつくオダマキは、パープーの冷ややかな視線に晒されながらも更なる燃料を投下する。


 リプ欄に【草刈り】といった言葉が書き込まれるたび、生えた植物を刈ります。


 その後どうなったかなど言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツイート大戦草 メガ氷水 @megatextukaninn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ