第42話 お茶会

 白亜の城壁に囲まれた、王宮内部にある庭園は光に満ちていた。テーブルには真っ白なクロスが敷かれて、サンドイッチや果物や甘いお菓子が並べられている。


「良かったら召し上がって下さい」とオリヴィアが持参した焼き菓子も好評を博した。


 お菓子作りをする貴族令嬢などオリヴィア以外にいるはずもなく、聖女の手作りお菓子に皆は興味津々といった様子だった。


 初めは「大好きなお菓子を、自分で作って食べたい」と思いたって始めたお菓子作りだが、やはり誰かに食べて貰えるのが一番嬉しい。食べた途端、人々から笑顔を引き出す事が出来るお菓子という存在は、本当に素晴らしい。そうオリヴィアは思わずにはいられなかった。


(良かった、舌の肥えた皆様が美味しいと言って下さって安心致しました……。そうだわ!今度孤児院でのお菓子配りなども打診してみたい……!)


 子供達が、自分の作ったお菓子を美味しそうに食べてくれるところを想像すると、胸がポカポカと優しい温もりに満たされた。


 神殿などでよく作られる、蜂蜜の入った小麦粉のお菓子を、神官と共に孤児院の子供達に配りながら行われる交流がオリヴィアは大好きだった。ちなみに神殿で作られたお菓子も大好きだ。


 オリヴィアが過去の記憶と、未来に想いを馳せていると、一人の美女が口を開く。


「私もお料理をやってみようかしら?」


 そう呟いたのは、艶やかで美しい巻いた黒髪に、サファイヤブルーの瞳を持つ、イザベル・バルテレミー公爵令嬢。大人びた顔立ちと雰囲気の彼女は十八歳で、エフラムやヨシュアとは従姉弟の関係に当たる。本日はコバルトブルーで品のあるドレスを、見事に着こなしている。


 従姉妹の呟きに、マリエッタ王女も「いいですね、私も」と、すぐに賛同した。亜麻色の髪にエメラルドグリーンの瞳、柔らかい顔立ちの王女は、イザベルと対照的な印象をもたらしている。


「楽しそうだし、毒殺避けにもなりそうね」


 笑んだままサラリと呟かれたイザベルの物騒な一言に、参加者である深窓の令嬢達の動きがピタリと止まった。


「ええ、本当に嫁いだ後の事も考えると尚更……」


 マリエッタも頷く。

 王女や王族の血を引く公爵家家の姫の婚姻となると、やはり配偶者に選ばれるのは高貴な身分の男性。跡目争いに自分や配偶者が巻き込まれるかもしれないという、懸念点からの考えのようだ。

 飲食に毒物が含まれるかもしれないと考えると、自分で用意するのが一番安全なのは明白だ。


 穏やかとは言い難い会話を微笑んだまま繰り広げる二人を見て、令嬢達は固まっていたが、オリヴィアは頷きながら妙に納得をしていた。


(お姫様って大変です……!)


 その時、一部の令嬢が毒の話題とは別に騒然とし始め、不穏な空気が場に広がった。

 素早く一人の令嬢が立ち上がり、イザベルとマリエッタに口添えすると、二人は中庭の入り口に目を向ける。

 その視線の先には、ヨシュアがアイリーンを伴い佇んでいた。

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