第4話
数日後。王家が所有する湖の屋敷が整ったという事で、オリヴィアは侯爵家から少数の使用人を連れて移動する事となった。
「はぁ……本当に邪魔だわこの羽……本当何なの…」
オリヴィアは本日も早速、自身の羽根について愚痴っていた。
むしろ王都の外れへと向かう道中とあり、密閉された馬車内で、羽をより苦々しく思っている程だ。
一人で一体どれだけ面積を取れば気がすむのかと。
果たしてこの羽を背負ったまま生活する事に、慣れる日が来るのかだろうか。ちなみにまだ全然慣れておらず、違和感しかない。
(え、そもそも一生このまま?……それはキツイ。実にキツイ)
「心配なさる事はございません、オリヴィアお嬢様はふんぞり返って人の何倍も幅をとっても許して頂けます!」
「それもどうかと思うわ」
蔦薔薇の装飾が施された高い城門を馬車がくぐっていく。
屋敷についたのだ。
広い敷地内にはクリーム色の、優美な屋敷が佇んでいた。この、こじんまりとして壮麗すぎない外観は、とてもオリヴィアの好みであった。
屋敷に比べて広大な庭園は、季節の花々が咲き誇っていて『湖の館』と呼ばれる通り、湖が広がっている。王宮に存在する左右対称に描かれた、幾何学模様が見事な庭園も素敵だが、ここは自然と上手く調和がされていてまた違う趣きがある。
屋敷は国から派遣された警備により、守りも厳重であり、内部も既に整えられている。オリヴィアの到着を待っていた使用人が、玄関の扉を開けて迎え入れてくれて、足を踏み入れた。
屋敷内に入ると、窓からふんだんに光を取り入れた廊下を渡って階段を登り、これから自分が寝泊まりする部屋へと辿り着いた。
化粧台や衣装棚、本棚、テーブルなど白を基調とした家具は金で縁取られ、猫足で統一されていた。
まさに天使の居室のような空間だった。
「まあ、なんて素敵なのかしら」
オリヴィアは感嘆の息を漏らしながら心をトキメかせた。
オリヴィアに続いて、侯爵家から連れて来た使用人達が荷物を運び込んでくれる。
大方荷物をクローゼットやチェストに仕舞い込まれた後、換気のために開けられていた窓の方へと歩み寄った。そしてオリヴィアは振り返り、満面の笑みでローズに言った。
「わたし、実はやってみたい事があるの!」
「何でしょうか?」
無邪気な主をローズは微笑ましく思いながら、真っ直ぐに見据えた。ローズはオリヴィアと年齢が近い事もあり、ずっと近くで見守っていた気心の知れた侍女だ。オリヴィアの今までの努力を知っているからこそ、第一王子の裏切りは許せなかった。自分と同等か、それ以上に近くでオリヴィアを見ていたのにも関わらず、最悪の形で裏切り傷付けるなんて。
聖女である事を否定されて、婚約破棄までされたとは思えないほど楽しそうなオリヴィアの姿に、ローズは少し安堵していた。
このまましばらくここで羽を休めて貰うよう、誠心誠意お世話しよう。背中の羽ではなく、精神的な意味で。
心から主を思うローズに、オリヴィアは両手を広げて、微笑んだ。
「この羽で飛んでみたいの!」
「飛ぶ……そういえばその羽、自分で動かす事が出来るのですよね?」
いつもポジティブなオリヴィアが、今まで羽根に関しては否定的な発言ばかりが目立ったのに対し、笑顔で飛んでみたいと発言するとは。羽についての思わぬ前向きな発言に、ローズは少し驚いていた。
「そうよっ」
「やはり、その羽は飛べる事も可能なのでしょうか?」
「それを今から試してみようと思うのよ」
そう言うとオリヴィアは一歩踏み出し、ベランダへと出た。眼前には見事な庭園が広がっている。
「や……やってみるわ……!」
何故か気迫が感じられるその華奢な背中を見つめながら、ローズは何だか嫌な予感がしてきた。そしてオリヴィアは手すりに手を掛ける──。
「よいしょっ……っと」
そして更に足を掛け、手すりに体を乗せようとする。
「お、お嬢様っ!試すのは一階に降りてからです!」
「ここからの方が飛びやすい気がしたんだけど……」
オリヴィアのイメージとしては、まず手すりに登って直立になってから落下すると見せかけて、華麗に庭園を飛び回る、というものだった。
「絶対にダメです!!」
ローズの猛抗議され、オリヴィアは仕方なしに一階へと降りてから庭園に出た。
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