第1話 ふたりの怪盗
勤労感謝の日ーつまりは祝日だというのにこの男は働いていた。
時刻は深夜二時。普段は人通りも多いこの四条通もさすがにこの時間帯はまばらであった。
「疲れたな。」
高崎亘は工事現場にいた。誘導係の格好をしているが、実はこの現場の人間ではなかった。
しかし、怪しまれることはなかった。彼らが働くこの島は大阪湾に作られた人工島で島の名前を大路島と言った。埋め立てが完了し、建物も随分と建てられたが、インフラが追いつかず、昼夜を問わずに突貫工事が行われていた。
この時間帯はどこもかしこも工事現場だらけで現場の人間も一人一人を認識しているわけではなかった。
ほぼ同じ時刻に四条通の地下通路を走る者の姿があった。こちらは作業服に身を包み、電気工事などで使う工具を持って走っていた。
「亘のバカ。普通女の子にこんな重たいもの持たせる?」
小牧香は額に大粒の汗を浮かべながら悪態をついた。
亘と香は一見するとこの島で働く現場作業員であったが、今夜の仕事は別件であった。
共通する目的のために2人はこの四条通に何日も前から計画を立てて練り歩いており、綿密な打ち合わせ通りならそろそろ計画が始まる時刻であった。
2人の目的は四条通から通りを一つ上ったところにある美術館の展示品を盗み出すことであった。
それは仮面の美術品で作品名を「漆黒の仮面」といった。
今回、メインで働くのは香の方であった。彼女は地下街から美術館の勝手口の電子ロックを解除し侵入する役目を担っていた。
亘は香が正面ゲートを出てきたら逃走用の車で彼女を拾って退散する役目だ。
彼らが今までに盗めなかった獲物は未だになく大路島では2人のことをジーニアス(天才)と騒ぎ立てる者もいた。もちろんそれは2人の耳にも届いていた。
「まあ、天才っていうのは間違いなくこの俺のことだろうな。」
亘はこの噂を聞いて自慢げに香に言い放った。
香は呆れていた。
2人がこれまでに盗み出してきたものはさまざまであったが、計画を立てているのはほとんど香だったし、亘はどちらかと言えばサポート役が多かった。
亘の自信は一体どこから来るのか分からなかったが
「そうね。ある意味天才かもね。」と
皮肉を込めて言った。
香は亘のそういう能天気なところが嫌いだった。
しかし、亘は香の計画には必要であり、また一人では盗めなかった物も多い。そう言った意味では亘に感謝していたし、今回も香を助けるのに充分な働きをするだろう。
電子ロックは意外と古いタイプのもので、暗証番号を入力するのに、液晶パネルではなく物理ボタンを押す必要があった。
この手のタイプでは香の能力も役に立たない。
香はため息をつきながらも素早くそして規則正しく物理ボタンを押していく。左手はドアのノブを握り、伝わってくる微弱な電気信号を読み取り、ものの数分で勝手口を開けてしまった。
香の手口はまるでその行為自体が芸術なのではと錯覚するくらい鮮やかであった。基本的に物を壊さないようにかつ、スピーディーに体を動かし、痕跡をほとんど残さない。
おそらく、鍵を持った職員でもここまで鮮やかに扉を開けるのは難しいだろう。
地下からエレベーターに乗り、4階の展示室へ向かう。途中いくつかの動体センサーや監視カメラがあったが、香は瞬時に死角やセンサー同士が干渉するポイントを判断して軽い身のこなしで最小限の体力しか使わなかった。
ジーニアス・スーベニアーズ 岩之助岩太郎 @haniwadouji
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