ジーニアス・スーベニアーズ

岩之助岩太郎

プロローグ

古来より、この国にはあまたの神々が各地に点在していた。

人々は神を奉り、五穀豊穣や自分たちの繁栄を願い、踊りや歌を捧げた。

捧げられるのは決まって夜だった。

神は尊い存在であったため、人々はその姿を見るに及ばなかったが、夜になると視覚以外で神の存在を感じることができた。

そういった神事に欠かせなかったのが、火を司る巫女、神楽耶であった。彼女たちは輝夜とも呼ばれその名の通り、夜の神事の際、焔を操り、夜を照らし人々を導いたり、自らの舞を神々に奉納していた。

中でもオオソノノミコトと呼ばれる巫女は火の神から焔を賜ったとしてその位につくものは代々強力な霊力を持つ者のみが選ばれた。

オオソノノミコトは本来、神職の中でも最高位に近い役職なので容易に人々の前には姿を見せない。

また、神に身を捧げたものであるので男女の交わりも禁じられていた。


しかし、第57代にあたる火村岬は別であった。彼女は通常16歳前後で受ける神職の試験に12歳で合格した。通常、神楽耶になるには7つの段階を踏み、はじめて一人前になれるのだが、岬は霊力がずば抜けて高く、最初から焔を操れたのでいきなり神楽耶になった。その後も龍が天に上るような勢いで出世し、若干18歳でオオソノノミコトとなった。彼女は歴代の中で最年少であったこともあってほむら様と愛称がついた。


岬は天真爛漫な性格で神楽耶の長であったが、人々と触れ合うことを大切にし、その姿を知らない人はいないほどであった。このことについては神職の中でも意見が割れた。ほむら様になにかあってはいけないから人々との交流はやめるべきだ。という保守的な意見。人々を導くのが我々の本来の目的だ。とする原点回帰的な意見。

なにはともあれこの問題に対しては意見が対立したものの、それほど事が大きくなることはなかった。


だが、のちに神職たちが手を焼く事態が訪れるようになる。

火村岬が恋に落ちたのである。

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