第11惑星(4)本能VS疾風

「はあっ!」


「……!」


 ヴェルデが右手を何度か振るうと、風の刃が発生し、それを喰らったタスマとテュロンが消失する。ヴェルデがハッとなる。


「む、もしかしなくてもアユミ=センリの分身能力を適用したものか……我ながら冷静さを失っていたようだ……ここは……居住区域だったところか……」


 ヴェルデが周囲を見渡すと、そこは古びたマンションや家屋などが並ぶエリアであった。


「うおおお!」


「ぬおっ⁉」


 建物などを突き破り、コウが飛び込んできた。一瞬面食らったヴェルデだが、冷静にその突進をひらりとかわしてみせる。コウが舌打ちする。


「ちぃ! 奇襲失敗か!」


「叫んでしまったら奇襲にならないだろう……アホなのか?」


「いや~よく言われる~」


 コウが照れ臭そうに後頭部を抑える。ヴェルデが手を左右に振る。


「……褒めてないぞ」


「あのお姉さんじゃないのが残念だけど、遊ぼうよ……『早弁のヴェルデ』ちゃん!」


「『疾風のヴェルデ』だ……なんだ、その校則違反な二つ名は……」


「あ~間違った、まあいいや、勝負しようよ」


「コウ=マクルビ……常識は通用しない相手だとは聞いている……」


「はっ!」


「むっ!」


 コウの槍による鋭い突きをヴェルデは刀を取り出して受け止めるが、その勢いに押されて、後ろに飛ばされる。しかし、すかさず受け身をとってみせる。


「今のに反応するとはやるね~」


「足から火を噴いての急加速……多少の距離など関係ないというわけか」


「そういう……こと!」


「ふん!」


 コウが再度の突きを繰り出すが、ヴェルデが今度は簡単にいなす。コウが体勢をやや崩す。


「おおっと!」


「来ると分かっていれば……」


「それ!」


「三度続けてとは、バカの一つ覚え過ぎる!」


 コウの三度の突きをヴェルデは簡単に払う。


「ちっ!」


「それしか芸がないのか?」


「そうだよ、悪い?」


 はっきりとしたコウの答えにヴェルデが面喰らう。


「そ、そうか……ならば、こちらから仕掛けさせてもらう!」


「くっ!」


 ヴェルデが刀で斬りつけ、コウの肩の一部が傷付ける。ヴェルデが首を傾げる。


「数太刀放ったのに、一太刀しか浴びせられなかった……なかなかの反射神経だな。しかし、もっと左右に動いた方が良いのではないか?」


「左右に動くとか邪道だよ! アタシは王道を往く! つまり前進あるのみ!」


「む、むう……もはやアホとかバカとかを超えた次元にいるな、お前……」


「照れるね!」


「だから褒めてない!」


「ええい!」


 コウがまたもや突っ込もうとする。ヴェルデが迎撃の姿勢を取る。


「しつこい! ……なに!」


 コウがヴェルデの突き出した剣の刃先で止まり、片足を少し上げて笑う。


「へへっ、引っかかった~♪」


「火を噴き出したのは片足のみ⁉」


「そういうこと……二段加速!」


「がはっ⁉」


 刃の横をすり抜けたコウが槍をヴェルデに突き立てる。ヴェルデは勢いよく吹っ飛ばされ、後方にある茂みを抜けて転がる。コウはその後を追いかける。


「広い所に出たな……ここは公園とかだったのかな?」


「ぐっ……」


「おっ、立ち上がった。手ごたえが足りなかったからねえ、次こそ決めるよ~♪」


「接近戦は危険だな……はっ!」


「うおっ⁉」


 剣をしまったヴェルデが両手を振ると、風の刃が発生する。コウの腕や膝に傷が付く。


「ふっ、これで決める……」


「ちっ、かまいたちのようなものか……厄介だな」


「キュイ!」


「⁉ テュロン!」


 突然現れたテュロンは狼のような大きさになる。


「キュイ! キュイ!」


「よし、背中を借りるよ!」


 コウがテュロンに跨って、左右に飛び跳ねる動きを織り交ぜながらヴェルデに迫る。


「くっ! 直進的ならば動きを読むのが容易だったのに!」


「もらった!」


 コウが困惑するヴェルデの懐に入る。ヴェルデが両手を振り上げる。


「えい!」


「どわっ⁉」


 下からの突風にコウがテュロンから離れて、体を持ち上げられてしまう。ヴェルデが笑う。


「なんとも無防備な体勢だな、とどめと行こう!」


「そうは……させるかっての!」


「ぐああっ⁉」


 空中でくるっと回転したコウは足裏をヴェルデに向け、火を噴き出す。火を喰らったヴェルデは地面に転がる。着地して、体勢を整えたコウが呟く。


「とっさの思いつきだけど、上手くいった……」


「ぐう……」


 ヴェルデが立ち上がろうとする。コウが声を上げる。


「立ち上がる前に決めさせてもらうよ!」


「『ワイルド』!」


「キューイ!」


「なっ⁉」


 コウが驚く。槍を突き立てようとした瞬間、テュロンがヴェルデに接近し、ヴェルデがそれに跨って、コウの攻撃をかわしたのである。ヴェルデが叫ぶ。


「この力で我は相手を自分の色に染め上げる……つまり味方にすることが出来る!」


「そ、そんなのってアリ⁉」


「もちろんいくつか条件があるのだが、なんといっても……」


「なんといっても?」


「このテュロンなる生き物が、お前より我に懐いていることが大きい!」


「んなっ⁉ そ、そういや、マネージャー君がそういうことを言っていたような……」


 コウがショックを受ける。


「隙有り!」


「くそっ!」


「キュイ⁉」


 コウが槍をテュロンの足元に投げつけ、驚いたテュロンがのけぞる。


「うおりゃあ!」


「ちいっ!」


 体勢を崩したヴェルデに対し、コウが殴りかかる。ヴェルデも風の刃で迎え撃つ。コウの拳がヴェルデの顔面に入ったが、コウの体の至る所が傷付く。


「ちっ、相打ちか……」


 コウとヴェルデが同時に倒れ込む。

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