第10惑星(2)電撃の凶暴
「……ええ、大丈夫です。ここのストアには前も来たことがありますから……担当スタッフさんのお名前と顔も確認済です。きちんと挨拶します。それじゃあ……」
アユミが通信を切り、独り言を呟く。
「皆仕事が重なっちゃうなんて……まあ、そういうこともあるか……」
アユミが苦笑しながら歩く。ここはある月面都市。アユミはストアへと向かっている。
「……」
その後をTシャツにジーンズとカジュアルなファッションに身を包んだ黄色い髪のサイドテールの女の子がついていく。アユミには気付かれないようにして慎重に歩いている。
「えっと……こっちか」
アユミが曲がり角を曲がる。サイドテールの子がその後に続き、角を曲がるが、そこにアユミの姿はない。サイドテールの子が驚く。
「なっ⁉」
「あの~何か御用でしょうか……?」
サイドテールの子の背後からアユミが現れる。
「い、いつの間に……」
「だいぶ前から後をつけてらっしゃいましたよね? そういうの困るんですが……」
アユミの申し訳なさそうな言葉に対し、サイドテールの子は小声で呟く。
「気付いていたとは……案外やるね」
「……それで、なんでしょう?」
「いや、アユミ=センリちゃん、アタシ、あなたの大ファンでさ……」
「ファンの方と言えど、こういう行動は困ります……」
「ご、ごめんね! もう二度としないから! それじゃあ……」
サイドテールの子がその場を離れようとする。アユミが尋ねる。
「あなた、本当にわたしのファンですか?」
「え? そ、そうだよ、マジのファン、この後のストアイベントにも参加するからさ!」
「……今回のイベントは完全シークレットなので、ファンの方には先に会場入りしてもらっているはずですが――出待ち対策も兼ねて――」
「む……」
「怪しいですね……」
「あ~! やっぱりこういうのはアタシの性に合わないな!」
サイドテールの子が頭を掻きむしる。アユミが首を傾げる。
「?」
「アユミちゃん、仕留めさせてもらっていいかな?」
サイドテールの子が長い鞭を取り出して、地面に叩きつける。アユミが冷静に答える。
「はい、分かりました、とはならないでしょう……」
「ふふっ、思いのほか、肝が据わっている子だね……っと!」
「‼」
サイドテールの子が鋭く鞭を振るうが、アユミは素早くかわす。
「へえ、結構な反射神経だ」
「……同業者の方ですね」
「あ、気付いた? せっかくだから名乗ろうか?」
「いえ、それには及びません……『クワトロ=ゲレーラ』、またの名は『クワトロ=コローレス』の方ですよね」
「! よく知っているね……」
「筋金入りのアイドル好きなもので……他の星系で活動していたはず……なぜ太陽系に?」
「アタシら銀河制覇を目指しているんだ。その手始めとしてまずは太陽系から……ってね」
「ぎ、銀河制覇ですか……」
「そう、『電撃のマリージャ』とはアタシのこと」
マリージャと名乗った子がウインクをしながら鞭を構える。アユミが呟く。
「……な、なんか、色々とダサいですね……」
「⁉ ひ、人が気にしていることを!」
「あ、気にしていたんですね、すみません……」
「謝ったって遅いよ!」
「!」
マリージャが鞭を素早く振り回すが、アユミが分身してかわす。マリージャが笑う。
「水星生まれならではの特殊能力……水のように分身する。それが仇になるんだよ」
鞭から電気が流れ込み、アユミはそれを喰らってしまう。
「がはっ⁉」
「ふっ、よく電気を通す……相性最悪だったね、ウチら」
マリージャが鞭を垂らしながらうつ伏せになったアユミに近づく。
「ぐっ!」
「むっ⁉」
アユミが鞭を掴み、思いきり引っ張る。マリージャは体勢を崩す。その後方から8体のアユミが迫る。マリージャが舌打ちする。
「隙有りです!」
「一度目の分身はフェイク⁉ わざと電撃を喰らってから、再度分身した⁉」
「もらいました!」
「ちいっ!」
「なっ⁉」
しばらく間が空いて、曲がり角からマリージャが出てくる。
「ここまでやるとはね……ストアイベントは残念ながらキャンセルね」
マリージャが苦しげに呟く。曲がり角の先には倒れ込んだアユミの姿があった。
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