第10惑星(1)火炎の凶手
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「……ええ、大丈夫よ。ここのスタジオには以前来たことがあるから……担当スタッフさんの名前と顔も確認済よ。ちゃんと挨拶するわ。それじゃあ、切るわよ」
ケイが通信を切り、独り言を呟く。
「まったく、心配性なのだから……」
ケイが苦笑を浮かべながら歩く。ここはある月面都市である。ケイはスタジオへと向かっていく、近道をしようと思い、路地裏に入る。赤い髪のショートカットの女の子とすれ違う。
「……!」
「……なにかしら?」
ショートカットの子がすれ違いざまに素早く殴りかかるが、ケイはバッグを掲げてそれを防ぐ。ショートカットの子が笑う。
「いや、ケイ=ハイジャにご挨拶をと思ってさ……」
「メリケンサックを付けた拳でご挨拶とは随分失礼ね」
「パンクって言って欲しいぜ」
ショートカットの子が両手を広げる。上下黒のレザージャケットという装いだ。
「パンクとメリケンサックが結びつかないのだけど……」
「バッグに防弾処理をしているのもなかなかだと思うぜ?」
ショートカットの子がケイのバッグを指差す。ケイがバッグを優しく撫でる。
「これお気に入りだったのに……仕事でもプライベートでも使えるから」
「へっ、仕事ね……」
ケイの言葉にショートカットの子が笑う。
「……同業者? 見かけない顔ね」
「だからこうして挨拶に伺ってやったんだよ」
「それはどうもご丁寧に」
「ちょいと面貸しなよ」
ショートカットの子が顎をしゃくる。ケイが首を静かに左右に振る。
「生憎、これからラジオの生配信があるので、貴女に構っている暇は無いわ」
「そんなつれないことを言うなよ」
「用件があるならここで済ませるわ」
「はっ、済ませるってか……」
「せめてフリートークのネタにでもなれば良いのだけど……」
ケイが髪をかき上げる。
「上等じゃねえか!」
ショートカットの子が再び殴りかかる。
「!」
「なっ⁉」
ケイが足から木を生やして、ショートカットの子を飛び越える。ショートカットの子の繰り出した強烈な拳は壁を抉る。ケイは感心する。
「なかなかの拳速ね。普通にかわそうと思ったのだけど……」
「はっ、それが木星生まれの特殊能力かい?」
「それなりに調べているようね」
「そりゃあな、だからオレがアンタを仕留める役を仰せつかった!」
「⁉」
ショートカットの子の拳から炎が噴き出す。
「燃やしてやる!」
「ぐっ⁉」
ケイが慌てて距離を取る。ショートカットの子が笑みを浮かべる。
「へっ、ちょっとはビビったかい?」
「……グループのお名前を伺っても?」
「ほう、察しが良いね……『クワトロ=ゲレーラ』、または『クワトロ=コローレス』だ」
「! 別の星系で結構目立っていると聞いたことがあるけど……」
「それは光栄だね」
「なぜ太陽系に?」
「銀河制覇を目指しているんだ。その手始めにまずは太陽系からと思ってさ」
「銀河制覇……」
「そう、『火炎のロハ』とはオレのことさ」
ロハと名乗った子が拳を構える。ケイが呟く。
「……ダサ」
「ああん⁉」
「お子ちゃまの遊びには付き合っていられないの。さっさと終わらせるわ」
「言ってくれんじゃねえか! 相性最悪の癖によ!」
「ふん!」
「なにっ⁉」
ケイが両手を突き出すと、両の掌から木の蔦が生え、ロハの両手に絡みつく。
「やりようはいくらでもあるわ。火を封じればいいだけのこと」
「くそがっ! ぐっ!」
「……このまま腕を捻り上げてあげるわ」
「ちっ……」
「なっ⁉」
しばらく間が空いて、路地裏からロハが出てくる。
「ここまでやるとはな……ラジオならオレが出といてやるぜ」
ロハが振り向き様に呟く。その視線の先には倒れ込んだケイの姿があった。
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