第4惑星(2)知られざるプライベート

「さて、ついたわ、各種手続きは……」


「そういうの面倒だからケイ、諸々よろしく~♪」


「なっ……」


 コウちゃんの言葉にケイちゃんが顔をしかめる。アユミが口を開く。


「えっと、先方との打ち合わせですが……」


「そういうのも大変だから、アユミ、よろしく~♪」


「えっ……」


「……貴女はどうする気?」


 ケイちゃんが尋ねる。


「アタシは本日フリーってことで、そこんとこよろしく~♪」


「あ、ちょっと、待ちなさい!」


「行ってしまいました……」


「お使いでも頼もうかと思ったけど、また何を買ってくるか分からないしね……」


「俺が行こうか?」


「いや、いいわ。大して荷物も出ないし、手続き等が済んだら私が行くわ」


「そうか……俺は何を?」


「……休みで良いわ」


「えっ⁉」


 ケイちゃんの言葉に俺は驚く。


「なによ、嬉しくないの?」


「い、いや、嬉しいけど……良いのか? なにか手伝えることは……」


 ケイちゃんが腕を組んで考える。


「そうね……じゃあ、コウについていってみて」


「ええ?」


「ケイさん、それはどういう狙いですか?」


 アユミがケイちゃんに問う。ケイちゃんが笑う。


「狙いだなんて大げさなものでもないけど、あの子、なかなかプライベートが謎じゃない?」


「そ、それは確かに……」


 アユミが頷く。


「そうでしょう? もうそこそこの付き合いなのに……」


「少し寂しいですね」


「だから、マネージャーを同行させれば、何らかの反応があるかもと思ってね」


 ケイちゃんは俺の方に顎をしゃくる。


「で、ですが、お互いのプライベートを詮索し過ぎるのは良くないんじゃないですか?」


「……真面目ねえ」


「……それが取り柄ですから」


「いつも面倒を私たちに押し付けている仕返しよ――もっとも、あの子に任せたらもっと面倒な事になる場合があったからだけど――これくらいしても罰は当たらないでしょう?」


「そ、それは、そうかもしれませんけど……」


 アユミの返事にケイちゃんは笑みを浮かべる。


「決まりね、ということで、マネージャー、コウへの同行をお願い」


「わ、分かった」


「映像をまわしてもいいかも、『コウ=マクルビの知られざるプライベート!』とか……」


「ええ……?」


「さすがにそれはやり過ぎでは?」


「冗談よ。まあ、半分休みみたいなものだから、気楽によろしく」


「わ、分かった」


 俺は外出の準備を終えると、ちょうど宇宙船を降りようとするコウちゃんに会った。


「ん~どうしたの? マネージャー?」


「い、いや、休みをもらいまして。火星を観光でもしようかなと……」


「そんなスーツ着て~?」


 コウちゃんは俺のスーツを指差して、ケラケラと笑う。


「いつもの普段着は洗濯中なので。それに、これは一応替えのスーツです」


「え? ウソ?」


「そんなウソをついてどうするんです。ほら、前に着ているのとは、色が違うでしょう?」


「ん~?」


 コウちゃんが俺の体に顔を近づけてくる。


「どうです?」


「ホントだ、若干違うね。何時の間に……」


「ハイジャさん……ケイが二着買ってくれたんです。いや、給料から天引きでしたか……」


「ふ~ん、メイドインビーナスのスーツか~」


 コウちゃんの言葉を俺は妙に気に入る。そうか、金星で購入したのだから、メイドインビーナスのスーツか。スーツなんて堅苦しいイメージがどうしても拭えなかったが、そうやって考えてみると、なかなかおしゃれかもしれない。営業トークで使えるかもな、どんな場面でかはさっぱり分からないけど。うんうんと俺は頷く。


「ふむ……」


「でもさ~?」


「ん?」


「スーツは結構おしゃれだと思うよ? でも……」


「でも……なんです?」


「足元がね~」


 コウちゃんがいいにくそうに俺の足元を指差す。スニーカーとしても使える黒の革靴だ。地球からの数少ない持ち物である。多少傷んでいることは自分でも承知はしていた。


「これが現状、一番しっくりくるんですよ」


「これからも色んな星にいくわけだから、もっと耐久性とかも考えた方が良いと思うよ~? この星みたいに道が整備されている星ばかりじゃないからさ~」


「う~ん、それは確かに……」


「……よし、じゃあ、コウちゃんが一緒に靴を選んであげよう!」


「え?」


「この辺は馴染みがあるんだ。安い靴屋さんまで連れていってあげるよ♪」


「あ、ああ……」


 どうやって同行願いを切り出そうかと思っていたら、なんと向こうからお誘いが来た。あまりにとんとん拍子で話が進むので俺は戸惑ってしまう。コウちゃんが首を傾げる。


「あれ? ダメかな?」


「とんでもない! よろしくお願いします!」


「それじゃあ、決まりだ。アタシ愛用のバギーで街まで行くから、ちょっと待ってて」


「はい」


「ふふん、2人を出し抜くチャンスだね……」


「何かおっしゃいました?」


「な、なんでもないよ、そこで待ってて!」


 コウちゃんが運転するバギーに乗って、俺たちは町の方に向かう。


「ガスマスクとかは要らないんですね?」


「火星は人類によるテラフォーミングが比較的順調に進んでいるからね、もっとも、酸素ボンベが必要なエリアはまだまだ多いけど、この辺は安全なところだよ」


「そうなんですね」


「そろそろ着くよ~♪」


 目的地の町に着き、俺たちはバギーを降りる。


「遠くから見るとこじんまりした町かと思いましたけど、それなりの規模ですね……」


「まあね~♪」


「おっ、コウちゃんじゃねえか、火星親子丼食べていかねえか?」


「ははっ、大将、ごめん、今ダイエット中だからさ」


「コウちゃん、こないだはサイン千枚もありがとうね~」


「ああ、おばちゃん、全然大丈夫だよ。またいつでも言って。あ、転売はダメだよ~」


 コウちゃんは町の人たちと楽しげに会話をかわす。俺が不思議そうに尋ねる。


「あ、あの、マクルビさん、ここは……?」


「え? ああ、ここはアタシの地元」


「ええっ⁉」


 いきなりど直球のプライベートに接近⁉

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